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ユウと別れると、スカイは再び戦場で拾った少女のことを考えてみた。近くの村の者だろうか。そのようには見えなかった。怯えの中に寂しさを含んだ美しい目。色は違うが、幼い頃のあの人の目に似ていた。
あの人のことを思うたびに胸が痛むようになったのは、あの人が移り住んだステーション№17が、地球連邦軍の攻撃を受けたと聞いた時からだ。生きていてほしい。生きていてくれればまた会えるかもしれない。会えなくてもいい。生きてさえいてくれれば。
スチファニー。それが彼女の名だ。ステーション№10では、幼い頃から知っていた。二歳年下なのに、いつまで経っても年上に思えた。だから憧れのような気持ちを持ったのだろう。それとも、遠い存在だったからだろうか。
「おい、どうした。物思いに沈んだような顔をして」
頭上から声をかけたのはマクタだった。マクタはクレーンを操りながら高所作業車でボロンとF104の外装を外しているところだった。
「大事な話があるんだ。下りてこられるか?」
スカイは声を大きくしてマクタに言う。
「急ぎか?」
「急ぎだ」
「行く」
マクタは作業場の長い梯子を下りてきた。
「修理にどれくらいかかる?」
スカイは小声でマクタに尋ねる。
「交換するパーツは全て在庫で賄えそうだから、そうだな、明日の夕方には」
「明日の朝までに仕上げてくれ」
「明日の朝? 無理言うな」
「頼む」
「作戦があるのか?」
「いや、一人で出かけたい」
「出かける? ピクニックにでも行くつもりか?」
「基地を出る。出てダブルドラゴンと戦う」
「何バカなことを」
「頼む。ルー・ソシアがいる。俺はあの人と一緒に戦いたい」
「ルー・ソシア?」
「立派な軍人だ。ルー・ソシアに会いたい」
マクタはスカイの目をじっと見た。今まで見たことのない真剣な目だった。
「ただじゃ済まされんぞ」
「承知の上だ。ダブルドラゴンを落とせば、大手を振って帰ってこられる」
マクタは諦めた。スカイは競走馬だ。戦闘中はそれこそ後ろに目が付いているのではないかと思わせるほど周りが見えるくせに、自分の考えに対しては真直ぐ前しか見えない。そこに突き進んでいくだけだ。それだからこそ、スカイはエースパイロットとして成長できたのかもしれない。
いつも無理難題を押し付けてくるスカイだが、今日だけは協力すべきではないとマクタは思った。だが、決して折れるスカイではない。結局はスカイの言いなりになるしかなかった。
「燃料とマシンガンの弾は満タンにしておいてくれ」
「今夜は徹夜になるな」
「すまん。それからこのことは誰にも言わないでほしい」
「指揮官には話してみたのか?」
「もちろん。即座に却下された」
「じゃ、俺は今の話は聞かなかったことにする。自分の勝手な判断で104を直したと。すぐにばれちまう嘘だけど」
「手伝いたいんだが、下手に手を出すと怪しまれるだろうな」
「朝までに体を十分に休めておけ」
「わかった。頼むよ」
手を上げてスカイはマクタと別れた。
「無茶はするなよ」
マクタはスカイの背に声をかけた。
「双頭竜、双頭竜と」
スカイは部屋に戻ると連邦軍の新型戦艦について調べた。
「何だかガセネタみたいのばっかりだ。ダブルドラゴンならどうか?」
画面の文字を次々と読んでいく。
「うーん」
軍の情報源にもアクセスしてみる。
思うような情報は得られない。
「じゃ、連邦軍の最新式戦艦」
新しいキーワードを打ち込む。
やがてスカイは様々な情報を仕入れ、ダブルドラゴンが飛行してきたコースは大体わかった。どこでどのような戦闘をして、そのような装備をしているのかもおぼろげながらわかった。軍の機密事項になっているので、正確な情報を得ることはできない。
ダブルドラゴンはゆっくりと移動している。どのような目的を持っているのかわからない。しかしこれからどのような進路を取るのかは推測できた。幸いにも、ラ・シューからそう遠い距離ではない。
スカイは慎重に自分の進むべき道を決めた。
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