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人捜し
「あの、あたし…人を捜しているんです」
そこは木の格子で囲まれた、いわゆる帳場というところみたいだ。何かの書類に目を通していたのか、その男はしばらく顔を上げず、ぶつぶつとつぶやいていたが、あたしのその言葉で顔をぐいと上げた。同時にキラッとメガネのふちが光った。
「あのさ、人を捜すならここじゃないよ。そういうのは警察か探偵事務所じゃないかな?」
至極もっともだと思った。でもそれじゃダメなんだ。
「あの…生きてる人じゃないんです」
また、キラッとメガネのふちが光った気がした。男はゆっくりと立ち上がり、帳場から降りるともそっとサンダルを履いて、それから窓のそばの長椅子に座るよう身振りであたしに示した。年は三十代前半だろうか。細身のスラックスにチェックのシャツを着ていて、なんだかとても頼りなさそうに見えた。
長椅子の前には小さなガラスのテーブルがあり、その対面の木の椅子に彼は腰かけた。どれもみな骨董品のように古くて、座ったり触ったりしてもいいのかと内心ビクビクしてしまった。
「生きてる人じゃないって、それって死者ってこと?」
彼はわたしの目を見ながらそう聞いてきた。
「そうです。死んだ人に会いたいんです」
笑われるかもしれない。でもあたしは正直に言った。
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