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死に別れ
「さっききみは死者に会いたいって、そう言ったね?」
彼はカップの紅茶をすすりながらそうあたしに聞いた。驚いたことにその紅茶はとてもいい香りと味で、あたしは少しうっとりとしていた。
「そうです。事故で死んだ友人に会いたくて」
「それってきみの恋人、かな?」
「そう…なんでしょうか…まだ好きって言ってないんですけど…」
「じゃ、それを言いたくて?」
あたしは小さくうなづいた。急に逝ってしまった彼。気持ちを伝えられず、その気持ちはいまも宙に浮いたままだ。こんな気持ちのままじゃ、どうにもならなくて、むかし祖母から聞いた記憶を頼りにここに来たのだ…。
「死に別れかあ…悲しいね」
「はい。とても悲しいです」
彼はじっと天井を見つめていた。そうして何かを決心したようにあたしを見た。
「死者への取り次ぎは曽祖父の時代にやっていたことがある。でもそれは父の代でやめちゃったんだ。父にはそういう力がなかったから」
死者への取り次ぎ?そういう力?いったい何のことだろう?
「ええ、わかりました。すいませんでした、お騒がせしちゃって」
「取り次ぎはできないけど、協力はできる。そう言ったら?」
何かよくわかんないけど、それって死者に会わせてくれるっていうことかな?
「もし本当に死んだ彼に会わせてくれるなら、謝礼を出します!えと、あんまり高いとちょっと無理だけど、バイト代を貯めたんで、二十万円くらいなら出せます」
二十万円なんて、女子高生なら大金だ。でも彼と会うため必死で貯めたんだ。
「うーん、二十万ぽっちじゃ話にならないけど、いまはお盆やお彼岸の時期じゃないんで暇だし、もしうまくそいつに会えたら、この店のものを何か買っておくれよ。ここはこれでも骨董屋なんでね。江戸時代のカッパのミイラなんてお買い得だよ」
「ミ、ミイラはとくに興味ありません!」
「あっそう…インテリアにお勧めなんだけどな。魔除けにもなるし。まあいいか。考えといてよ」
あたしの目にはどうにもここにあるのはカッパのミイラのレベルのものしか映らないけど。でもなんだか希望が出てきた。まあちょっとうさん臭かったけど。
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