案内人

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案内人

「おーい、じゃのめ。ちょっと来てくれないか?」 彼は大声で奥に声をかけた。しばらくして、かったるそうにあの少年が奥から出てきた。年は十二歳くらいだと思った。 「なんだよ、せっかくいいところだったのによ」 「すまんなじゃのめ。こちらのお嬢さんが、人を捜してほしいんだって」 「えーっ」 「あからさまにそういやな顔すんな」 それはもうこの世の終わり、っていう顔をじゃのめくんはしてた。 「うまくいったらまたマンガ買ってやるから」 「別にいいよ、コンビニで立ち読みするから」 「最近ここらのコンビニ、どこも入り口にお札張ってるぞ。深夜、本棚から笑い声がするっていってな。おまえ心当たりある?」 「な、なに言ってんだよ。そんなあるわけねえだろ」 そう言いながら少年はすごくしょげた。 「じゃのめがきみを案内する。きみは彼氏を捜すといい」 「え?どういうことですか?」 「じゃのめについて行きなさい。あ、でもこれだけは守って。死者の頼みを聞かないこと。じゃのめの言うことを絶対聞くこと。朝にならないうちに帰ってくること。いい?」 「わかりました。わかりましたが、こんな子供がどうやって…」 当然の疑問だ。こんな少年がどうやって死者捜しの案内なんかできるんだ? 「じゃのめは霊体、つまり幽霊なんだ。だから死んだ人間の霊を捜すのは得意なんだぜ」 「あなたそれ本気で言ってるんですか?」 「本気も本気。ついでに言うと、ぼくはここで骨董屋ともうひとつ、レンタル業を営んでいます」 「レンタル業?なんの、ですか?」 「それはもちろん、幽霊ですよ。だからじゃのめをお貸しします」 「はあ?」 「もうあんまり時間はないよ。わけは後でじゃのめから聞いてね。しつこいようだけど言いつけはちゃんと守ってね」 幽霊とかレンタルとか意味はよく分からなかったが、言いつけはちゃんと心に刻んだ。 「よろしくお願いします」 あたしは少年の幽霊に頭を下げた。とくに怖いとは思わなかったが、不思議な気持ちはしていた。 「ほっんと、めんどくさ。こんなことしてなんになるんだろうなー。家で屁でもこいてたほうが楽しいだろうに。きっとバカなんだろうなー」 聞こえてるぞ生意気なガキだ。目的さえ果たしたらシメよう。幽霊がなんぼのもんだ。 「じゃあついて来いよ。いいか、はぐれんじゃねーぞ。俺みたいに親切なやつばかりじゃねーからな」 そう言って少年はとことこと歩き出した。意外に早い。あたしは置いてかれまいと必死で後を追った。 「いってらっしゃーい。気をつけてねー」 うしろから彼の能天気な声が聞こえた。
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