1人が本棚に入れています
本棚に追加
案内人
「おーい、じゃのめ。ちょっと来てくれないか?」
彼は大声で奥に声をかけた。しばらくして、かったるそうにあの少年が奥から出てきた。年は十二歳くらいだと思った。
「なんだよ、せっかくいいところだったのによ」
「すまんなじゃのめ。こちらのお嬢さんが、人を捜してほしいんだって」
「えーっ」
「あからさまにそういやな顔すんな」
それはもうこの世の終わり、っていう顔をじゃのめくんはしてた。
「うまくいったらまたマンガ買ってやるから」
「別にいいよ、コンビニで立ち読みするから」
「最近ここらのコンビニ、どこも入り口にお札張ってるぞ。深夜、本棚から笑い声がするっていってな。おまえ心当たりある?」
「な、なに言ってんだよ。そんなあるわけねえだろ」
そう言いながら少年はすごくしょげた。
「じゃのめがきみを案内する。きみは彼氏を捜すといい」
「え?どういうことですか?」
「じゃのめについて行きなさい。あ、でもこれだけは守って。死者の頼みを聞かないこと。じゃのめの言うことを絶対聞くこと。朝にならないうちに帰ってくること。いい?」
「わかりました。わかりましたが、こんな子供がどうやって…」
当然の疑問だ。こんな少年がどうやって死者捜しの案内なんかできるんだ?
「じゃのめは霊体、つまり幽霊なんだ。だから死んだ人間の霊を捜すのは得意なんだぜ」
「あなたそれ本気で言ってるんですか?」
「本気も本気。ついでに言うと、ぼくはここで骨董屋ともうひとつ、レンタル業を営んでいます」
「レンタル業?なんの、ですか?」
「それはもちろん、幽霊ですよ。だからじゃのめをお貸しします」
「はあ?」
「もうあんまり時間はないよ。わけは後でじゃのめから聞いてね。しつこいようだけど言いつけはちゃんと守ってね」
幽霊とかレンタルとか意味はよく分からなかったが、言いつけはちゃんと心に刻んだ。
「よろしくお願いします」
あたしは少年の幽霊に頭を下げた。とくに怖いとは思わなかったが、不思議な気持ちはしていた。
「ほっんと、めんどくさ。こんなことしてなんになるんだろうなー。家で屁でもこいてたほうが楽しいだろうに。きっとバカなんだろうなー」
聞こえてるぞ生意気なガキだ。目的さえ果たしたらシメよう。幽霊がなんぼのもんだ。
「じゃあついて来いよ。いいか、はぐれんじゃねーぞ。俺みたいに親切なやつばかりじゃねーからな」
そう言って少年はとことこと歩き出した。意外に早い。あたしは置いてかれまいと必死で後を追った。
「いってらっしゃーい。気をつけてねー」
うしろから彼の能天気な声が聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!