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冥土イン谷中
「ここを右。あそこは左」
じゃのめくんはスタスタと歩いていくが、曲がり角の手前ではちゃんと教えてくれる。なぜならあたしがキョロキョロして危なっかしいのだ。
「よそ見すんなよ京子のくせに」
「な、なによ京子のくせにって」
「京子は京子だろ?まったくほんとダサいよな」
「し、失礼ねっ!」
あったまきた!京子って名前変?そんなわけないじゃない!
「よそ見すんなって言ってんの」
「だって…」
おかしな景色なのだ。たしか谷中の墓地のはずだ。それなのに、なにか商店街みたいなところを歩いている。その店も何かおかしかった。硫黄水あります?洞窟饅頭?生蛙のヘソ?意味わかんない。それに歩いているやつも変。おかしな格好をしている。
「あんまりジロジロ見んなよ。因縁つけられたらどうすんだ」
やだ、ヤンキーでもいるのかしら?
「ねえ、ここってどこ?」
「はあ?そりゃお前、きまってっだろ?」
「わかんないよ」
「おまえは死んだやつを捜してんだろ?だったらここにくりゃ見つかるぜ」
「それってどういうこと?ここは死者の町なの?」
「まあそういうことだ。俺たちゃ冥土イン谷中って呼んでるぜ」
「シュールね」
それにしても谷中にこんなとこがあったなんて。きっとここは霊界の入り口なんだ。
「そら、あそこで聞こうぜ」
案内所のような建物だ。のぼり旗がメチャメチャたくさん並んでいる。建物の中には小さなカウンターがあり、そこにかわいらしい女の子が座っていた。
「いらっしゃいませ。何かお困りですか?」
「よう百千、ひさしぶり」
「なんだあんたか。なんか用?」
知り合いなんだろうな。それにしてもかわいいけどおかしな女の子だ。いまどきおかっぱ頭で真っ赤な着物を着ている。
「このねえちゃんが死人を捜してるんだ」
「まあ案内所だからね。ねえ、写真かなんかある?位牌だと一発でわかるけど」
位牌を持ち歩く人間はいません。
「写真ならここに」
あたしは彼と撮ったたった一枚だけの写真を見せた。
「ふうん、あんた写真写りいいわね」
いやあたしは関係ないから。
「あー、こいつなら現世にまだいるわ。やあね、地縛ってんのかしらね?」
地縛霊になってる?まさか彼が?いやあり得る。なんたって若かったんだ。やりたいことだっていっぱいあったはずだ。現世に思いを残すなんて当然だ。で、もしそのなかにあたしがちょっぴりでも入ってたらうれしいんだけど…。
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