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羊羹みたいな人魚?
彼は黒いレースのような、羊羹のような、イカスミのような、何とも言えない黒い霧みたいなものを頭からすっぽりと身に纏っていた。
彼は自らを"人魚"と名乗ったのだ。
彼との出会いは、ある雨の日だった。
雨が若葉の色を濃くする中、それを見つけたのだ。木々の間を抜け、少し坂道になっている地面を雨と一緒に何かが流されていたのだ。
私はいつもと違う光景を立ち止まって見ていた。
その光景はとても大きな羊羹が流しそうめんのように雨に流されているようだった。
私は好奇心で近づいてみようと足を1歩踏み出した。その時だ。
「うぅ…」
大きな羊羹から、うなり声らしき声が聞こえたのだ。私は驚いたが好奇心には勝てない、大きな羊羹を助けることにした。
まだ雨がシトシトと降っていたが傘を閉じ、ポケットからハンカチを取り出し大きな羊羹をハンカチ越しに掴んだ。どこを掴むか悩んだが先端が細くなっているところを掴み、持ち上げようとした。思ったよりも重く、しかも雨で滑るので持ち上げることは出来なかった。
「もしかしたらオオサンショウウオの仲間かな?」
何て言いながら周りを見渡し雨宿り出来そうな木を見つけたので大きな羊羹を引きずり、その木に持たれさせた。ずるずると引きずりながら運んだので怪我をしていないか確認し、見たところ大丈夫そうなので帰ろうとした。
「じゃあね」
だがその時大きな羊羹の目がパッチリと開いたのだ。辺りをキョロキョロし私を見上げた。
「良かった、君元気そうだね。バイバイ」
私は返事が返ってこなくても大きな羊羹に挨拶をした。その場を去ろうと立ち上がった時、大きな羊羹に裾を捕まれた。大きな羊羹は上目遣いでまるで連れていってくれと言わんばかりに2つの目をうるうるとさせ、しまいにはクゥーンと鳴きこちらを見つめている。
「君、可愛いやつだな。でも家では飼えないんだ。母はペットNG、が…うーん」
しばらく大きな羊羹と見つめあった。
「ん?」
よく見るとブルブルと震えていた。弱っているのか羊羹みたいな生物特有の揺れなのか…。
「まぁ、こんな雨だししばらくは保護と言う形で家に連れてゆこう」
私がそう言うとこの生物は言葉が分かっているかのように喜び、
「パラパキュッパラパラパラ」
と鳴き声?をあげた。
「んふっ、ページをめくる音そっくりだね。ちょっと待ってて」
家に少し大きめのバケツがあったはずだ。それに入ってもらおう。
私は雨の中駆け足でバケツを取りに行った。が後ろでペチャッズルズルという音がして、もしやと振り返ると大きな羊羹がこちらに来ようとのたうちまわっていた。
「!!!」
私は急いでバケツを取ってきて、大きな羊羹の前にバケツを倒して置いた。
「君はここに入ってくれ」
大きな羊羹は何の疑いもなしにズルズルとバケツに入っていった。大きな羊羹はバケツにすっぽりと収まった。
「持ち上げるよ」
大きな羊羹が頷いたように見えた。
「ふっ、よいしょっと」
バケツを両手で抱え私は歩きだす。大きな羊羹はひょっこり顔を出し動いてゆく景色を見ていた。
「いつまでも大きな羊羹って呼ぶのもな。そもそもメスかオスか、うーんオスかな?」
「うん」
へっ?返事が来た。周りを見渡しても誰もいなかった。いるのはキョロキョロしている羊羹だけ。ということはこの羊羹は喋れるのか、と考えたが
「まぁ、そんなわけないか」
自宅に着くと、バケツを風呂場に持って行った。私も雨に降られたのでシャワーを浴びよう。どうせ濡れたし服のままでいっか。バケツをひっくり返し大きな羊羹を蛇口の下に出した。声もかけないでいきなりひっくり返したのでベチャン!と勢いよく地面に激突した大きな羊羹。
「あっごめん」
大きな羊羹は2本の足で立ち上がり薄い目をしてこちらを見つめ、ぶつけたところをごそごそと擦っていた。
「妙に人間みたいなやつだな。てか立てたの?足何かあったっけ?」
洗いながら観察しよう。シャワーを手に取り水を出す。ぬるま湯ぐらいでいいかな。
「シャワーかけますよ」
私は大きな羊羹を地べたに座らせシャワーをかけ泥を落とした。頭に触るとまさしく羊羹のようだが少しゴワゴワしていて、ジェットによく似て綺麗だった。
「ジェットに似てるね」
ジェットとは魔除けの意味も持つパワーストーンのことだ。次々と、泥を、落としていく。
「足元も綺麗にね。あれ?」
足にシャワーをかけていくともう1本足らしきものが出てきた。
「なんじゃこれ。しっぽ?かな?」
足を観察しよく見ると青黒くキラキラ光る小さな鱗を見つけた。
「綺麗だな。もしかして君はトカゲかな?」
ドラゴンとかだったらどうしよう。と頭でもんもんと考えた。
大きな羊羹のシャワーを終え、脱衣所へ。タオルを持ってきて頭に被せた。全身を拭いた。
「とりあえず青って呼ぶね。羊羹よりはましかと思って」
大きな羊羹、もとい青は
「何でやねん!青い要素ひとつもないぞ!そこはクロとかジェットとか名付けるか思たわ!」
と、つい突っ込みを入れた。
「ひっやっぱりペラペラ喋れるやん。しかもめっちゃ関西弁!」
私は驚きながらも笑った。
「宜しくね、私は月子」
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