二十三

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二十三

 ユキナは数日ショウと過ごした後、明るさを取り戻し仕事に復帰した。事件後、アキラから一通のメールが届いた。そこにはショウへの礼と、自分は潔く身を引くという内容が記されていた。それ以降、ラインも来なくなった。どんな形であれショウに会い、自分で納得して決めたことだ。振られてプライドが傷つき、失意のままに諦めたわけじゃない。ショウもアキラのことを男らしい奴だと褒めていた。これで良かったのだと思う。  ショウは捜査に戻った。ユキナたちを襲った男たちの素性も次第にわかってきた。ユキナたちが食事をした店の名は『万華楼』。ショウがマークしていた店だ。そしてショウが後をつけていた金髪のピアス男こそ、洪英春であった。洪英春には傷害と公務執行妨害とで逮捕状が出た。仲間の一人が他人名義のクレジットカードを所持していたこともあり、不正電磁的記録カード所持罪容疑で取調べを受けた。そこで忍野倉庫の存在が浮上した。忍野倉庫はハダケンゴが所有する物流倉庫である。洪英春ら台湾黒社会とハダケンゴが繋がっていることは確実だった。つまり北陽会と台湾黒社会との繋がりを浮き彫りにした形になる。北陽会が裏で糸を引いて、都内で偽造クレジットカード詐欺事件を起こしたのはわかる。しかし、何かがおかしい。北陽会の舎弟であるハダが、香港との麻薬取引を故意に失敗させたその理由がわからなかった。何故、ハダが万華楼に通っていたのかもハッキリしない。奴はまだ、国内にいるのだろうか? 逃亡した洪英春の行方もわかっていない。警察は全て後手にまわっている。  忍野倉庫はすでにもぬけの殻だった。聞けば先月、倉庫内の全てのものがどこかに運び出されたという。ショウが富士吉田周辺で聞き込みを行った時、現地の土地買収に詳しい男から、最近は日本人ではなく中国人に土地を買収されて困っているという話を聞いた。世界に比べると、日本の、特に地方の土地はまだまだ安い。奴らは自国で土地所有ができないためか、バブルで浮いた金で日本の土地を買い漁っている。奴らは水源にも手を伸ばす。今のところ実害は報告されていないが、何に使われるのかわからないという気持ち悪さが残る。他にこんな話も耳にした。富士吉田に隣接する都留市や大月市の辺りでも、同様のケースがあるようだ。そしてその土地を買収しているのが、在日中国人だという。ショウは胸騒ぎを感じた。知らぬ間に、外来種によってじわりじわりと侵食されて行くような気がした。そういえば、今回の事件で『ヒアリ』が見つかった。猛毒を持つ外来種だが、水際で食い止めることができたのだろうか? 外来種たちはマフィアに似ている。奴らは住みやすい土地を見つけてコミュニティーを作る。そして徐々に外国の土地に根を張って行く。  万世橋署の二階の食堂で、少し遅いランチを食べている時、テレビのニュースが『ヒアリ』を報じていた。海外からの積荷に紛れ、近頃ではセアカゴケグモなどの有毒な外来生物の上陸が確認されたばかりだ。ヒアリが確認されたのは、これが初めてだという。ヒアリは東南アジア、南アメリカ、アフリカ大陸と割合広範囲に生息している。今回の上陸はやはり香港からの荷に紛れたものだった。南米では年間百人以上が亡くなっている。これまで日本にはヒアリは存在しないとされていた。だが、台湾、香港の気候で生息できる以上、日本に生息できないわけがない。幸運にもこれまで被害が出なかっただけで、実は存在していたのではなかろうか?
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