それは、また後の話。

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「アナタ!現場から連絡がきましたよ!無断欠勤なんて一体ど…」 いつものように我を叱りつけようとした君の顔が曇る。 「…………どうされたの?ひどい顔色だわ…」 君。君、君からは、かつて我を参らせた、あの甘い匂いが、匂いがする。するのだ。 不安そうな顔をする君に向かって、我は片手をあげて首を振る。 「ねぇ?体調が悪いのかしら。平気?お食事はされたの?あの……爪が…」 君の声が、怯えを孕む。 向けた掌、上に伸びた指先。 爪が尖り、太く伸びていた。 コレは……一体どういう事だろう? ミチミチと身体の中で音がして、痩せ細るばかりであった四肢に、急速に血液が巡っていくのを感じる。姿を変えてもいないのに、筋繊維が膨らむ。 コレは、この身体の変調は。 我は、我は、 「アナタ……怒っているの?」 君よ。言葉にしないでおくれ。 我は、きっと、そうなのだ。 今、そうなのだから。 否定したくて、誤解であると伝えたくて、首を振り近づく。 「ひっ……だっ、ダメ!」 何故怖がるんだい?何度も君を、安心させてきたじゃないか。勿論だ、破り捨てたりなんてしないとも。 煩いくらいに、身体からミチミチと音がする。どうにも興奮を抑えきれない。息は荒く、唾液が溢れていく。 君よ……君よ…… そうやってずっと、我を、参らせていたのだね。 「はいはい、おぅじゃましますよ」 と、いつのまにか家宅侵入していた元祓魔師が、2人の間に割って入った。 「飲みに行きましょう『月喰ミ』。ねぇ?」 「………は、祓い屋さん。夫が……その…」 「ハイハイ、ダイジョーブダイジョーブ祓符貼レバオーケーネハイハイ行クヨー」 コイツが駆け付けて来たという事は、我は今相当にマズイ状況になっているのだろう。 しかし、君を、君を安心させてやらないと… 身体で止められても尚、君に近づこうとする我の耳元で、 「……おい、殺したらどっちにも居られなくなるぞ。選ばせてやるから抑えろ…」 聖者が囁いた。
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