5人が本棚に入れています
本棚に追加
「アナタ!現場から連絡がきましたよ!無断欠勤なんて一体ど…」
いつものように我を叱りつけようとした君の顔が曇る。
「…………どうされたの?ひどい顔色だわ…」
君。君、君からは、かつて我を参らせた、あの甘い匂いが、匂いがする。するのだ。
不安そうな顔をする君に向かって、我は片手をあげて首を振る。
「ねぇ?体調が悪いのかしら。平気?お食事はされたの?あの……爪が…」
君の声が、怯えを孕む。
向けた掌、上に伸びた指先。
爪が尖り、太く伸びていた。
コレは……一体どういう事だろう?
ミチミチと身体の中で音がして、痩せ細るばかりであった四肢に、急速に血液が巡っていくのを感じる。姿を変えてもいないのに、筋繊維が膨らむ。
コレは、この身体の変調は。
我は、我は、
「アナタ……怒っているの?」
君よ。言葉にしないでおくれ。
我は、きっと、そうなのだ。
今、そうなのだから。
否定したくて、誤解であると伝えたくて、首を振り近づく。
「ひっ……だっ、ダメ!」
何故怖がるんだい?何度も君を、安心させてきたじゃないか。勿論だ、破り捨てたりなんてしないとも。
煩いくらいに、身体からミチミチと音がする。どうにも興奮を抑えきれない。息は荒く、唾液が溢れていく。
君よ……君よ……
そうやってずっと、我を、参らせていたのだね。
「はいはい、おぅじゃましますよ」
と、いつのまにか家宅侵入していた元祓魔師が、2人の間に割って入った。
「飲みに行きましょう『月喰ミ』。ねぇ?」
「………は、祓い屋さん。夫が……その…」
「ハイハイ、ダイジョーブダイジョーブ祓符貼レバオーケーネハイハイ行クヨー」
コイツが駆け付けて来たという事は、我は今相当にマズイ状況になっているのだろう。
しかし、君を、君を安心させてやらないと…
身体で止められても尚、君に近づこうとする我の耳元で、
「……おい、殺したらどっちにも居られなくなるぞ。選ばせてやるから抑えろ…」
聖者が囁いた。
最初のコメントを投稿しよう!