第一歌 今日の京都はあやしき秋模様

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 男に対し、近くを歩いていた人たちは腫れ物を触るような目で逃げていく。  いたたまれなくなったはやては聞こえないフリをした。彼が「おーい、(ぼん)。聞こえてるんか?」と、顔を近づけたりしても、完全無視を決めこんだ。  次の瞬間、はやての持つ地図に視線を落とす。首を斜めに捻り、今度ははやての肩に触れた。 「で? 坊はどこ行きたいんや?」  男はズイッとはやてへと顔を近づける。  初対面お構い無しの距離感を取られ、はやては引いた。男が何者であるのか、目的すら掴めない。そう簡単に尻尾を出すようには見えず、むしろ飄々とした態度が不気味さを誘った。  同時に、はやては薄ら寒さを覚える。  ──随分と馴れ馴れしい人だ。どうせ道を尋ねてさようならする人なんだ。   「ひ、東本が……」 「──坊、視えとるやろ?」  男の声は低く、それでいて、はやてに嫌な汗を流させた。心の臓が鼓動を早めながら男を直視する。  男は顔の見えぬまま、カラカラとした笑いを飛ばしていた。 「……そんな事を言うあなたこそ、視えるんですよね?」 「当然!」  隠すつもりは全くないのだと、男は胸をはって肯定する。  あまりにも明け透けな態度と馴れ馴れしさに、はやては不信感を募らせていった。  この男が何者なのかもわからない今、迂闊なことは言えない。どこかに男の仲間がいて、はやての弱味を握るために潜んでいる可能性も考えられた。  周囲を警戒する。  途切れることのない車の行列、そして大勢の人々が歩いていた。観光マップ片手に歩く者もいれば、写真を撮り続ける者もいる。それ自体は観光地付近らしい光景ではあった。 「ああ、心配せんでもええよ。俺一人やさかい。たまたま(・・・・)歩いとったら、たまたま(・・・)不審者みたいな格好の坊が目に留まっただけやからね」    たまたまという言葉だけを強める。  確かにはやての格好は今の時期だと少々厚着だ。秋と云えど、まだ夏の暑さが残っているからだ。けれど、寒がりといえば説明がつく格好である。  片や、男の方はどうだろうか。  着物はともかく、顔を覆う布。これは普通に考えて不審者でしかない。下手をすると警察案件だ。 「人の事を不審者扱いする前に、自分の格好を気にした方がいいですよ?」  容赦ない一言を放つ。 「なーんの事か、わからへんなあ」
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