今日の京都はあやかし喰らい

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 ┼ ┼ ┼ ┼  八月十六日、京都の五山に焔が彩る。山を暁に染めた瞬間、幻想的な光を放った。  輝きながら広がるそれは【大】の字を作り上げる。  これは京都五山(ござん)送り火という祭りだ。  東山如意ヶ嶽(にょいがたけ)の【大】、松ヶ崎西山と東山の【妙法】、西鴨船山の【船形】。そして大北山の【左大文字】、嵯峨鳥居本曼荼羅(まんだら)山の【鳥居形】と、京都駅より北に位置する場所で行われた。   これらは五分おきに、町の六ヶ所で進められている。    人々はこの文字に群がり、歓喜の声をあげ、夏の京都を楽しんでいた──  ◇ ◇ ◇ ◆ ◆ ◆  誰もが山に灯る焔に魅了されている刻、大の字が見える場所──丸太町大橋──の下。  そこに、一人の男が立っていた。  服装は紺色の甚平に下駄と、夏らしい格好である。  けれど、そんな服装には似つかわしくない見目をしていた。髪は老人かと思えるほどに白い。顔に至っては布で隠すという、怪しさ満載の見目であった。  しかし、それを咎める者は誰もいない。男の奇っ怪な姿よりも、五山送り火に夢中になっているからだ。 「……参ったでぇ」  腕を組み、深いため息を吐く。首の後ろを掻き、視界にあるものを入れた。彼の視界に映るのは、もふっとした毛並みに覆われた動物のようなナニかである。けれど肢が八本という、到底動物とは謂えない存在だった。  ただでさえ不可思議な生き物だと謂うのに、さらには首から上がない状態だ。けれど器用なまでに八本の肢は動きながら『助けてくれよお』と、言葉を放っている。  刹那、奇妙な生き物の肢は動きを止めた。微動だにしなくなったそれはコトノハすら語らず、チリとなって夜空へと舞っていく。 「……」   男は何も語ることなく、散ったそれらを見て首の後ろを掻いた。 「とうとう、この町にも来おったようやな」  男は着物の袖からスマホを取り出し、素早くタップしてスマホを耳にあてる。 「……ああ、俺や。遂に現れおったで。あの、【あやかし喰らい】がな──」  男の呟きは、数刻前から夜空に上がる花火によってかき消えていった──
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