第一歌 今日の京都はあやしき秋模様

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 落ち行く夕陽が京都駅を朱色に染め始める十月上旬。一風吹けば、秋の風物詩でもある紅葉がハラハラと落ちた。銀杏や枯れ葉なども風に誘われて舞っている。  耳を済ませて聴こえてくるのは微かな鈴虫の音。  されど残暑が続き、熱を帯びた風と太陽は健在で……行き交う人々の服装を見ても、コートを着ている者は一人とておらず。大半の者たちが半袖で過ごしていた。 「──やっぱり、この格好は浮くなあ」  そんななか、JR中央口付近で怪しい格好の者がいる。  その者の高くも低くもない中性的な声が人々の賑わいによって、かき消されていった。  名は葵渚(あおなぎ)はやて。  まだ残暑が続く季節であるにも関わらず分厚いコートを着、モコモコな毛がついたフードを被っていた。フードの隙間からは長く艶やかな黒髪が現れるが、顔まではわからない。  ふと、風の悪戯か。フードが少しだけズレて顔がのぞけた。黒く大きな瞳に長い睫毛、柔らかそうな頬と血色のよい唇。目鼻立ちの整った、端麗な人物だ。  年の頃は十七、八歳前後だろうか。身長一七五cm前後で細身だ。  声や顔立ちからでは性別の判断は難しいが、身長からして男だと推測できる。 「……!」  その者は(おもむろ)に下を見、ゆっくりとしゃがんだ。足元に両手を伸ばし、ショートブーツの紐を結ぶ。しかし結んだ瞬間にまたほどけてしまったので再度直した。 「……ああ、またぁ」  何度結ぼうとも自然と(・・・)ほどけてしまう。彼は両手で紐の先を握り、ため息を溢した。 「いい加減にしないと祓うよ?」  (から)を睨む。けれどその先には誰もおらず、通りすぎる人たちからは不審者を見る眼差しが送られていた。  それでも彼は慣れた様子で何もない場所へ手を伸ばす。空を丸くなぞり、最後は指で弾いた。  彼は満足げに片口を上げる。  立ち上がり、コートの帽子を深く被り直した。誰もいないはずのそこに手を振り、ボストンバッグや籠を持って去っていく。
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