第一歌 今日の京都はあやしき秋模様

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 京都駅JR中央口に風が誘う。秋の葉が舞い、ハラリと落ちていった。  そんな葉を……水分を失い、カサついた音をたてる葉を掴む者がいた。  尖った頭部に、大きな両眼。顔から足まで全てが真っ赤で、赤子程度の身長しかない。とてもかわいらしい小柄な何かだった。  季節に似合わずなコートを着、もこもことしたフードで顔を隠す彼の背中を見つめる。通りすぎていく人々には目もくれず、ただ、彼だけを目で追っていた。 『視えるやつ、久しぶりに現れたなあ』  空気に溶ける声で呟けば、葉っぱを手にしながら笑う。ふへへと、楽しげだ。 『こりゃあきっと、この町が解放される日(・・・・・・)、近いんじゃないか? ふへへ。やっとオイラたち、あやかしの時代が来たんだーー!』  真っ赤な身体のそれは、鼻歌混じりにスキップしながらどこかへと消えていった。  彼らは人にあらず。  彼らは人とは違う(ことわり)の住人。  彼らは"あやかし"と呼ばれる、不思議な存在であった。  そんな彼らが常にいるここは京都。本州にあり、歴史深い寺や神社、工芸品の数々が有名な場所だ。かつては平安京という首都として君臨していたこともあり、今もそれは語り継がれている。  同時に、平安時代の空気が強く現れていた。なかでも、人間とは違う理で生きる──人には視えぬ者(あやかし)──。  魑魅魍魎(ちみもうりょう)が群れを成していた平安時代の名残か。ここでは、あやかしたちの悪戯が今も健在で……  美しく、平安京のような妖しい空気と景色が混じり合うこの地を、人は(いつく)しんでいる。そして親しみをこめ、視える者たちはこう呼んでいた──  【古都(こと)京都】と。
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