302人が本棚に入れています
本棚に追加
指で地図をなぞり、うんうんと納得する。籠を持って意気込み、京都タワーを左手に踵を返した。
「こっちかな?」
バス停を挟んだ道を通りすぎれば、眼前に京都タワーが見えた。東京タワーほど大きくはないが、真っ白な外壁が目に留まる。
「この道をまっすぐ進んで……烏丸九条まで行けばいいのかな?」
京都タワーを目印に歩道橋を渡った。渡り終えた先に多くのビル群があり、曲がり角も多い。
しばらく歩いていると、天然温泉が見えてきた。
「うわあ~、温泉かあ。いいなあ……」
温泉に浸かりたいと呟き、バス停の名前を確認する。そこには【塩小路高倉】と書かれていた。
意気揚々と観光本にある地図と照らし合わせる。
「…………うん? あれ?」
目的地でもある東本願寺付近は九条烏丸通りにある。と、書かれている。けれど今彼がいるのは、九条でもなければ烏丸通りでもなかった。
建物は大きな寺ではなく、今どきのお洒落なビルが多い。
当然、地図を上下左右逆さにしてみても何も変わらなかった。
どうなっているのだろうかと、はやては首をかしげる。もう一度地図を見、現在地を確認した。
指で地図にある京都タワーを指し、今度は来た道を振り返る。身を少しだけ、京都タワーが見える位置まで乗り出した。
「……困ったなあ」
ひっきりなしに来る車やバスの音や、観光客たちの話し声。真後ろにある土産店から聞こえてくる、京都らしい琴の音楽など。
彼にとっては心踊る魅力的な光景ではある。しかし現状はそれだけ。今のはやてにはそれすらも楽しむ余裕がなかったのだ。
「こ、こうなったら道行く人に尋ねて……」
自分の力だけでは限界を感じ、近くを歩く人へと声をかけようと口を開く。
その時、はやては背後に誰かの気配を感じた。振り向くとそこには……
「──何や坊。困ってる事でもあるんか? お兄さんが助けてやるで?」
見知らぬ男が立っていた。
男の登場はあまりにも突然だった。
金髪でオールバック、上下ともに真っ黒なスーツ。背は、はやてよりも頭二つ分ほど高く、服の上からでもわかる逞しい体つきをしている。
けれど顔だけはわからない。真っ白で四角い布が顔面を覆ってしまっていたからだ。布の中心には睫毛の長い一つ目が描かれている。
その布の両端を後頭部で結んでいた。
最初のコメントを投稿しよう!