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「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「……紫雨さん。いい加減にしてくださいよ。あなたの声だけで1ページ使うつもりですか」
管理棟のベンチに座り、足を組んでイチゴ牛乳を持ったまま、間延びしたロングトーンを出す恋人を林が睨んだ。
「だってさあ。暇なんだもん」
「あ、それ言っちゃいます?」
林は缶コーヒーの蓋を開けながら紫雨の隣に座った。
「やっぱりこれもコロナの影響なのかなー」
「顕著ですよね、ここまでくると。影響を受けてないメーカーとモロに受けたメーカーが」
林は目を細めてセゾンエスペースの前の駐車場を見つめた。
紫雨も背もたれに腕をかけて振り返る。
普段であれば、GWの名残でそこから発生したアプローチ客がイベントやら見積もりやらでごった返していてもいいはずなのに、閑古鳥が鳴くほど来場客がない。
「工場が海外にあってさーロックダウンしてるとこは弱いよなー。だって来年中に建たねえもん。それに比べて……」
隣の建物を顎でしゃくる。
ファミリー・シェルター、通称ミシェルの駐車場は、停まり切れなくてセゾンの方にはみ出すほどの車が停まっていた。
ここから見えるリビングの大型掃き出し窓から、ミシェル天賀谷展示場の課長である牧村が、客相手に大袈裟なジェスチャーで何かを話しているのが見える。
「ミシェルはあれだっけ?国内生産?」
「そうですね。埼玉に工場があります。躯体の部品も国産のものを主に使っていると伺ってます」
広報部の林が頷く。
「なにそれ。じゃあほぼノーダメージじゃん」
紫雨がイチゴ牛乳を一口すすりながらため息をついた。
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