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「家なんてさあ、本当に必要じゃなかったら買わねーんだよ。だからその重い腰が上がった時ってのは、もう今すぐ必要なときなの。遅えんだよなー。1年半後じゃ。
それなのに営業目標変わんないし?ボーナス基準も変わんないんじゃ、やってらんねえよな」
そう言いながら5月の陽に光る茶色い髪の毛をガシガシと掻きむしっている。
「ーーーそんなにひどくやったら傷つきますよ」
その手に温かい手が優しくかぶさった。
「おいお前……ここ、職場」
「その中でも紫雨さんはちゃんと例年通りを成績を出してるじゃないですか」
林は笑顔で紫雨を見下ろした。
「えらいですね」
「――――!!」
紫雨は顔を真っ赤にして立ち上がった。
「お前……俺はマネージャーだぞ!それに何歳年上だと思ってんだ!やめろよ!」
「はいはい、すみません」
林は手を離しながらくすくすと笑った。
「でも、この状況が続くのはあまりよろしくありませんね」
「全くだ!」
紫雨がまだ顔を染めたまま鼻を鳴らした。
「ちょっと広報の観点からも考えなきゃいけないですね」
林は顎を人差し指と親指で摘まみながら唸った。
「それに―――変な噂を聞いたんですよ」
「噂ぁ?」
紫雨が振り返る。
林は眉間に皺をよせ、セゾンエスペース天賀谷展示場を睨んでいた。
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