怪しい名探偵 第1回 丸出為夫の推理

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 例年よりも早く桜が咲き始め、そして例年よりも早く桜が散り終わった。春が両腕を広げて本格的に起き始めた、そんな4月のある日のこと。  池袋北(いけぶくろきた)警察署の建物内は、まるで数か月前の木立のように、殺伐とした雰囲気に包まれていた。署の管内で殺人事件が発生したのだが、捜査が行き詰まり出したのだ。  池袋本町(ほんちょう)5丁目に住む不動産業・滝野(たきの)幸彦(ゆきひこ)(72歳)が、自宅の寝室で遺体となって発見された。  朝6時ごろ、近所に住む家政婦・山口(やまぐち)喜子(よしこ)(69歳)が、いつも通りに滝野宅を訪れ、朝食の用意をしようと思ったところ、表玄関のインターホンを押しても何の反応もなし。  「滝野の旦那さん、いつも朝5時ごろには起きてるはずなんですよ。何度インターホンを押しても誰も出ないものだから、滝野さん家に電話かけてみたんですね。でも固定電話にも携帯電話にも出なくて。で、沙由里(さゆり)ちゃん……滝野さんの奥さんのことですけど、その沙由里ちゃんのスマホにかけてみたら、やっとつながったんですよ。やっとつながったのはいいんですけど、今自宅にいなくて、三軒茶屋(さんげんぢゃや)の友達のところにいる、とか言ってて……」山口はそう話した。  滝野夫妻の自宅は表・裏の両玄関とも、鍵は番号入力式で開錠するようになっている。そこで山口は、幸彦の妻で女優の滝野沙由里(28歳)から電話で玄関の番号を聞き、鍵を開けてみた。ただし表玄関はチェーンが掛かっていて入れず、滅多に使わない裏玄関から入ることになったが。
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