24人が本棚に入れています
本棚に追加
でも、ありえない。今度は小壜のウイスキーを飲みながら、海老名は独りつぶやいた。ありえない。でもこの推理を受け入れなければ、全てがつながらない。ひょっとしたら、ただの妄想か? できればそうであってほしいが、もし正しいのなら……問題は真犯人をいつ拘束しに行くか。今か? それともあの人物が来るまで待つか? 仮に来たところで意味があるのか? そもそもこの時間に本当に来るのか? でもできる限り急がないと、全てが手遅れになりそうだ。夜が明けたら……
どうしようかな? 俺は相変わらず優柔不断だよ。
かつて元妻は海老名のことを、「ポローニアスも殺せないハムレット」とよく言ったものだ。称賛と軽蔑、両方の意味を込めて。別にハムレットは、ポローニアスを殺そうと思って殺したわけではない。叔父のクローディアスを殺そうとして、間違ってポローニアスを殺してしまったのだ。慎重に慎重を重ねた結果、間違いを犯すことは少ないかもしれないが、その分、常に大きな機会を逃してしまう臆病者。優柔不断のさらに上をいく超優柔不断。超が付くほどの優柔不断と言われようとも、もう少し待ってみるか。それともポローニアスを巻き添えにしてまで事を急ごうか……
酒を飲みながら悶々と迷っている時、突然内線電話が鳴った。1階の受付にいる当直の巡査からだ。
「わかった、今すぐここへ連れて来てくれ」海老名はそう伝えた。
最初のコメントを投稿しよう!