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「おまえ、そのことをどこで知った?」丸出の襟首を吊し上げたままの状態で、海老名が聞いた。
「わ、私は名探偵ですぞ。甘く見てはいけません……そ、それより早く、その手を放してくれませんかね? 本庁やマスコミにリークしてもいいんですぞ。そ、そうなったら、あなたの首はおろか、この署の信用にも……」
海老名は両手を放した。解放された丸出はゼイゼイと息を切らせながら、床に落ちた自分のベレー帽を取るために床にしゃがんだ。海老名の目に入った帽子のない丸出の後頭部は、はげ上がっていた。帽子をかぶり直して、再び立ち上がった丸出は、
「今、私の後頭部を見ましたね?」
「いや」と海老名は嘘をついた。
2人が廊下で立ち尽くしたまま、しばらくの間、沈黙の時間が床を流れていく。
「それで……」海老名が口を開いた。「何が目的だ?」
「は? おっしゃる意味がよくわかりませんが」
「そうやって俺をゆする目的だよ」
「ゆする、だなんて人聞きの悪い……私はただ警察のお役に立ちたいだけです。そのためには、誰かにとって都合の悪い真実も知らなければなりませんが。金のことなら心配はいりません。それなりの報酬は署の方からいただきますし。あとはまあ……何かおいしい料理でもごちそうしてもらえると、うれしいですな」と言って、丸出は屈託のない笑顔を見せた。
「わかった。もうそれ以上、俺を嗅ぎ回らないでくれ」と海老名は言った。「それよりも……この時間にあんたを呼んだ件なんだけど、あんた昼間、大森と関係者へ聞き込みに行った時、アパートの奥で何かを踏んづけたろ?」
「はて? そんなことがありましたっけ?」
「よく思い出せよ。滝野幸彦ん家と息子の幸司ん家の間にあるアパートの奥だ。あんたが虫眼鏡で蛾の死骸を運ぶ蟻を観察した後……」
「ああ、あれですか。あれなら今でも私の……」と言って、丸出は自分のコートのポケットに手を入れようとした。
「ちょっと待った!」と海老名が大声で制した。「もし今も持ってるんなら……今、軍手をはめる。絶対に素手で触るなよ」
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