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その時、会議室の外が急に賑やかになった。刑事課長の「さ、どうぞどうぞ、お入りください」と言う声も聞こえる。会議室の扉が開き、人が続々と入ってきた。
まず一人目は、警視庁捜査第1課の上野大志という、30代前半の刑事。一人置いて3番目に入ってきたのが、やはり同じ警視庁捜査1課出身で、40代前半にして今の地位についている池袋北署の署長・河北昇二。最後に、刑事として現場に立ったことのない、池袋北署の形だけの刑事課長・立川進が入って来て扉を閉めた。
その中で最も目をひいたのが、2番目に入ってきた謎の男。
トレンチコート、ベレー帽、パイプ煙草……まるでシャーロック・ホームズ気取り。古い映画やテレビドラマによく出てきそうな、探偵そのままの格好だった。
今時こんな格好は、刑事はおろか私立探偵ですらしないはず。ただのコスプレ衣装と間違われても文句は言えない。年の頃は50歳を少し過ぎたぐらい。立川課長と同じぐらいか。まだ朝晩は少し寒い時間もあるので、トレンチコートを羽織るのはわからなくもない。ただベレー帽なぞ、少し流行遅れな絵描きがかぶるものでしかないし、何よりもパイプ煙草が異様すぎる。パイプ煙草なんてものは、今ではごく一部の愛好家がたしなむ程度でしかない。そのパイプ煙草を口にくわえて左手で支えながら、会議室全体を眺めているその目付きは、この男の頭の中にある普通の人間と180度違う歪んだ考え方を、口からではなく目の穴から、煙のように吐き出しているのは明白だった。
つまりはこの男、誰が見てもただの変人である。
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