お困りごとはレンタル熊田へ

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 到着してまずやるのは郵便受けの確認。今でこそ防犯の意味で番号しか書かれてないが、昔の団地でしかも年寄りだけなら……よっしゃ、やっぱりフルネーム! しかも二人暮らしの人は夫婦の名前書いてあるけど一人暮らしは一人分だ。  郵便受けの中でひときわ目立つのは、301と302は名無しなので無人。303「渡辺徳次郎」で304も無人。つまりこの渡辺さんは隣がいない、孤独。圧倒的孤独! よっしゃ、ターゲットロックオンだ。  エレベーターなんてものはないので三階までダッシュ。……今更だけど、三階って年寄りにはそこそこきつくないか。まあいいや、部屋に到着してピンポンを三回。はーい、と聞こえた声は老人だ。よしよし、ここまでは順調。  がちゃ、と扉が開いた。絶対モニターとかなさそうだもんな。出てきたのはだいぶ高齢なじいさんだった。背中は丸いし痩せている。 「はい、どなた?」 「あ、わたくしレンタルサービスを」 「はあ? あの、すまんけどもうちょっと大きな声で」  耳遠いパターン来た。 「わたくし、レンタルサービスの会社の熊田と申します!」 「はあ」 「日用品から、消耗品まで、レンタルサービスしてるんですが、お困りごとはございませんかあ!?」 「はあ」  ダメじゃね? これ。他のところ行こうかなと思ったけど、じいさんはうんうん、と頷いた。 「あ、ああ、困りごとか。そういやあるな」  マジか、言葉をかみ砕いて理解するのに五秒必要なのか。いやまあ仕方ないか。 「お困りなんですね!? お役に立てると思うので!」  よっしゃ、カモだ。ここからはとりあえず契約させちゃえばこっちのもんだ。スマホもパソコンもないだろうから昔ながらの紙での契約だな。とりあえず高い順にチェック入れさせてサインもらえればミッションコンプリートだ。 「まあこんなところじゃなんだ、お入りなさいな」
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