プロローグ

1/1
前へ
/6ページ
次へ

プロローグ

あの日、旧校舎の裏手に行ったのは、ただの気まぐれだ。 あの日は春の陽が麗かで、ちょうど1人になりたい気分で、 旧校舎の裏手には南の陽がさすことを俺が知っていただけ。 ただそれだけ。ただの偶然だ。頭では理解できる。 なのに、俺の中の何かがやっぱり違うと言っている。 あの日、あの場所で、あの人と出会えたことが、運命じゃなかったはずがない。 澄んだ白い肌も、柔らかそうな黄土色の猫っ毛も、震えるまつ毛も。 静かに寝息をたてる彼は、 テレビで観る芸術的な教会のような、 中世の装飾で彩られたお城のような、 そんな荘厳さを纏っていて。 祝福の光に包まれたようなあの人の姿が、 今でも俺の脳裏に鮮烈に焼きついている。 それこそ、カメラなんていらないくらいに。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加