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ウミガメによるプラスチック類の誤飲が問題になっているのは知っていたが、不織布マスクがプラスチック製品であるということについては、ウミガメの排せつ物から不織布マスクが見つかったというニュースを見るまで知らなかった。
道端に落ちているマスクの画像をSNSにアップするようになったのはいつ頃だっただろうか。2ヶ月ぐらい前だったように思うが、少なくともこのニュースを見たときには既に、それは習慣になっていた。
始まりは軍手だった。就職先が決まらず、自暴自棄を通り越して諦めの境地に達していた頃だったから、もう半年以上前のことだ。軍手を片方だけ道端に落とすバイトがあるというのをネットの情報で知った私は、何のために軍手を落とすのか、気になって調べてみたのだ。だが、いくら調べてもわからなかった。
きっかけはそこにあった。道端に落ちている軍手の画像をSNSにアップすれば、その謎が解けるかもしれないと漠然と考えたのだ。
が、いくらアップしてもこの謎を解明するきっかけはつかめなかった。だからちょっと道端に目を凝らすのに飽きていたのかもしれない。
それでも軍手と巡り合ったときには、ほとんど惰性でそれを画像におさめてSNSにアップしていたのだが、あるとき路上に落ちているマスクを見て、ふと思ったのだ。マスクの落とし主は、なぜその場所でマスクをはずす必要があったのだろうか、と。
疫病はマスクの消費量を増やしたが、私の収入源を減らした。内定がもらえず、私はこの春、ついに就職難民になった。おまけに、大学1年の頃から始めていたバイト先の飲食店も潰れた。卒業を控えた2月も終わりの頃だった。
それでも実家暮らしなので、クラウドソーシングで小銭を稼ぐなどして何とかしのいでいるが、社会人になったらいずれは独り暮らしができるものと期待していただけに、疫病の出現は大きな打撃だった。これではいったい何のために大学を卒業したのかわからなくなってくる。
父親は2年前から単身赴任していて、疫病のこともあってか、今は月に一度、帰ってくるかどうかといった具合だ。
専業主婦の母親は相変わらず活動的で、ヨガに行ったり、大学の公開講座に通って詩を習ったりしている……はずだったのだが。
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