どこ吹く風

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 紫の花びらの傘が畳まれて、白いブラウスの背中が寿司屋の中へと消えていった。後に続いたのは、グレーのスーツ姿のすらっとした男だった。  ふたりが連れ立ってホテルに入る場面も、そのホテルの建物も、既に静止画として残してはいたけれど、私は寿司屋の店先にたたずむ行燈看板を画像におさめた。アップするのは最後の1枚だけで十分だった。今後もこの方針はたぶん、変わらない。  寿司屋に背を向け、夕暮れの小道を歩き始めた。路地裏に置かれている室外機のそばに、白いマスクと、それから口紅が付着した淡いピンク色のマスクがもう1枚、つがいのように揃って落ちているのを横目で捉えたが、私の足はとまることはなかった。  じっとりとぬるい一瞬の強い風が、傘を持つ右手の甲をぬか雨で湿らせた。〈了〉
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