9.幸せのカタチ、一緒ならきっと

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***** 「お母さん、匡は?」 「え!?」 「匡は今日、来ないの?」  ダジャレかと思ったが、湊は真剣そのもの。 「来ないと思うけど?」 「……ふーん」  実家に帰って二か月。  私は匡との付き合いを両親や子供たちに隠すことはせず、子供の反応を見て一緒に過ごすようにもしていた。  梨々花は新しい中学校で吹奏楽部に所属し、念願のフルートを吹いている。仲のいい友達もできて、毎日楽しそうだ。  引っ込み思案の湊は新しい暮らしに慣れるのに少し時間がかかったが、実家の三軒隣に同じクラスの男の子がいて仲良くなれた。  ある地域では残暑が厳しかったり、台風による警報が出ているらしいが、札幌の九月は暑さも和らぎ過ごしやすい。  食べ放題だった庭のミニトマトが終わり、湊が口を尖らせていた。  蝉の声が聞こえなくなり、トンボが行き交うシルバーウイーク。 「匡に用事?」 「……ううん」  茹で上がったとうもろこしを半分に折ってやると、湊が手の上でポンポン弾ませながら持って行った。 「匡ちゃんとサッカーがしたいんだって」  お母さんがキッチンにやって来て、残っている半分のとうもろこしを咥えた。 「相変わらず塩が効いてない」 「だからお母さんが茹でてって言ったのに」 「とうきび自体が甘いからいいよ」  もう一本を半分に折り、私も咥えた。  いつもながら、私は塩が効かない。 「で、サッカーって?」 「(てつ)くんが休みの日にお父さんとサッカーしてるの、羨ましいみたい」  哲くんは三軒隣の子で、お姉ちゃんと妹がいる。休みの日はお父さんと遊んだり出かけることが多いそうだ。 「約束してたの?」 「ううん。前に匡ちゃんが元サッカー部だって聞いたから、一緒にできるかもって思ったみたい」 「そっか……」
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