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1.夢に見る、会いたくなかった男
「熱、ある?」
私を見下ろしながら、彼が聞く。
彼自身の吐息も十分、熱い。
「ある、かも」
あるかないかと言えば、ある。
全身、汗ばんでいるのだから。
「それは――」
『――俺のせい?』
嬉しそうに聞かれる前に、唇を重ねる。
そう、あんたのせい。
あんたといると、身体が熱い。
でも、言わない。
私は彼にしがみつき、腰を揺らす。
我慢できなくなるまで。お喋りなんか、忘れるまで。
言えば……良かった。
あの日から、今も、私は肝心なことほど、言えない。
今さら……か。
病室のベッドの上、目覚めると同時にふふっと笑みをこぼす。
彼は知らない。
私が帰ってきたことを。
知らせるつもりもない。
その術すら、ない。
今さら……言えない。
あんたじゃなくても幸せになれる、なんて大見得切っておきながら、捨てられて帰って来ましたなんて。
あんたじゃないから幸せになれなかったわけじゃない。
それでもきっと、言うんでしょう?
ほら、やっぱりお前には俺じゃなきゃダメだったろう? って。
十六年経っても想像できる。
俺様で、いつも余裕で、私の体温を上げる男。
あいつにだけは、知られたくない――――。
病室から見える真っ青な札幌の空を眺めながら、私は夢の続きを願って目を閉じた。
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