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「お! 来た来た」
「お疲れ~」
「ビールでいい?」
「マジ、疲れたー」
「わ! 美味しそう。お腹空いたぁ」
「簑島、なんでスーツ?」
口々に挨拶を交わし、三人は空いている椅子に座る。
ゆるフワな明るい茶色の髪をうなじより少し上で束ねた近藤が香苗の、槇ちゃんが簑島の正面に座る。
そして、三人目が、真っ先に私の正面に座った。
「久し振りだな、千恵」
匡……。
夢に見た男。
会いたくなかった男。
記憶より髪が長く、いわゆる無造作ヘアというのか、指で髪を掻き上げたように後ろに髪を流し、申し訳程度に前髪を垂らしている。耳に髪をかけているのは私的に好きではない。
が、記憶よりずっと大人びた雰囲気で、けれど記憶のままの声と眼差しで、帳消しだ。
認めるのは悔しいが、やはり格好いい。
『熱、ある?』
夢の中の彼の台詞と、私を揺さぶる汗ばんだ身体を思い出し、私は彼から顔を背けた。
「あれ? 篠塚と柳澤って仲良かった?」
「うん? 俺ら、一年一緒だったから」
匡が、簑島の問いに答える。
「ああ! そっか。あれ? 近藤も?」
「ああ。庄田もだろ?」
「うん。私と千恵と近藤と柳澤が一年一緒。で、私と千恵と真奈美と簑島と槇ちゃん、近藤と柳澤が二、三年一緒」
「俺と槇野、一年一緒だったよな」
「うん」
「懐かしーねー」
ワイワイ話しながらも、香苗は三人分の料理を取り分ける、簑島が手伝う。
全員が揃ったからと、もう一度乾杯しようと真奈美が全員のドリンクを注文する。
私は、近藤のロン毛を眺めながら、頬に感じる視線に気づかないフリを貫く。
「しっかし、バツイチ多くねー? ふたクラスでこんなにいんだろ?」
「今時、こんなもんじゃない? 五年後は倍になってるんじゃない?」
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