1.夢に見る、会いたくなかった男

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 正面から目の前にずいっとジョッキが差し出され、私はジョッキの中の気泡を見つめたまま、一瞬だけ自分のジョッキをぶつけた。  どうして平気な顔、してられるの。  どんな顔をしているかはわからない。  見ていないから。  けれど、私を見ているのはわかる。  見られたくなかった。  若くて元気いっぱいで、卑屈になるなんて知らない私だけを憶えていてほしかった。  バツイチで、白髪染をして、肌はテカっていて。  彼にだけは、見られたくなかった。 「篠塚は東京にいたんだろ?」  ぼんやりしていたから、間近に簑島の声を聞いて、ハッと顔を上げた。 「あ、うん」 「離婚して帰ってきた?」 「そう」 「匡も東京じゃなかったか? 大学」と近藤が箸にザンギを刺し、小さく振った。 「ああ」と、匡が短く答える。 「親父さんが倒れなきゃ、東京で就職してたんだろーな?」 「え――?」  お父さんが倒れた……? 「どうかな。就活苦戦してたから、やっぱ帰ってきてたかもな」  ははは、と匡が笑う。  私は簑島に顔を向けたまま、視線だけ匡が持つジョッキに動く。  なんで、そんな嘘……。 『やっぱ、就職しようかな』  両手を組んで頭の上にのせ、んーっと上体を仰け反らせて身体をほぐしながら、匡は言った。 『彼氏が学生って、恥ずかしくない?』  私は小さなキッチンで、インスタントコーヒーが入ったカップ二つにお湯を注ぎながら、『どこが?』と聞く。 『ヒモみたいじゃん』 『養う気なんかないけど?』
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