9.幸せのカタチ、一緒ならきっと

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 東京ではない光景だったが、札幌は道幅も広いし車通りが少ない住宅地では子供が家の前でキャッチボールをしたりサッカーをしたりするのはよく見かける。  休日は校庭で遊ぶのも許されているし、住宅地にある公園も東京より広い。  東京の友達とは違って、毎日習い事や塾に追われている子供は少ないから、湊は学校が終わるとよく哲くんと遊んでいる。  スニーカーを真っ白に汚すほど遊ぶだなんて、東京にいた頃では考えられない。  あの日以来、喘息の発作もない。  毎日の薬は飲んでいるが、以前ほど神経質に掃除洗濯しなくても、思いっきり走り回っても、大丈夫なようだ。  梨々花はコンクールが近いからと、毎日午前中は学校に行き、午後は友達の家で練習している。  だから、シルバーウイーク中は、湊ひとり。 「お母さんとキャッチボールでもしようか。あ、サッカーの方がいい?」  とうもろこしを食べ終えてごみを捨てに来た湊に言ってみた。  思いもしなかったようで、きょとんとして、少し考えて、首を振った。 「いいよ。ボールないし」 「あ、そっか。買いに行く?」 「ううん。いい」と呟き、湊は階段を駆け上がっていく。  せっかく湊がやりたいと思った子供らしい遊びなのに、相手になれる父親がいないなんて。  まぁ、紀之がキャッチボールやサッカーの相手になれるとは思わないけど。 「千恵! このボールならあるよ」  お母さんが手にしていたのは、湊が赤ちゃんの時に買ったアンパ〇マンの柔らかいボール。 「これでサッカーは無理じゃないかなぁ」  そう言いながら、受け取ったボールをふにふにと握る。 「家の中ならいっか」  そもそも、いきなり外で思いっきり投げられても蹴られても、私が受け取れない。 「湊ー!」  私が今できることで向き合おう。  弾まないボールを握りしめて、息子の元へと足を弾ませた。
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