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「お母さん、大丈夫?」
息子が心配そうに私の足首を覗き込む。
「大丈夫! ちょっと、ぐきってなっただけだから、明日には治るよ」
「……」
今更、日頃の運動不足を嘆いても仕方がない。
昨日、部屋の中で湊とサッカーをしていた私は、思うように動かない身体に苛立ち、ムキになり過ぎた結果、転んで足首を捻った。
豪快に転んだものだから、築三十五年の家が軽く揺れたほど。
捻ってからすぐに湿布を貼っていたのだけれど、今朝はくるぶしが少し腫れている。
情けない。
バスケ部だった学生時代は、何キロも走った後にドリブルやシュート練習をして、更に試合までしていたのに、八畳間の端と端でボールを蹴っていただけで息が上がり、左右に振られて転ぶだなんて。
はぁ、と自己嫌悪のため息をつく。
せっかくの連休に、息子と遊んでやれないどころか、暗い表情をさせてしまうなんて。
「湊」
「ん?」
「来週、サッカーボール買いに行こうか」
「……いいよ」
イントネーションからして、『いらない』の意味のいいよ。
「どうして?」
「別に――」
ピーンポーン
インターホンが鳴り、お母さんがモニターを覗く。
「あら、匡ちゃん」
「え?」
「匡!?」
湊がぱあっと表情を変え、一目散に玄関に駆けていく。
会う約束はしていない。
この連休は忙しいと言っていた。が、確かに玄関から匡の声が聞こえる。
「お邪魔します」
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