9.幸せのカタチ、一緒ならきっと

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 リビングで、野球を見ながらL字ソファを私と二人で占領していたお父さんが立ち上がり、姿勢を正してソファの端に座り直した。  お父さんは、離婚して帰ってきた娘がすぐに恋人を連れてきたことに戸惑っていて、だからといって嫌な態度をとるわけでもなく、ただ落ち着かない様子。 「こんにちはー」  少し頭を低くして入って来た匡は、ネイビーのTシャツにベージュのスラックスといういで立ち。一緒に入って来た湊の手には、サッカーボール。 「どうしたの!?」  私と匡が、声を揃えて言った。  匡は私の足、私はサッカーボールのことを言ったのだ。 「匡がくれた!」  湊がネットに入ったサッカーボールを両手で持ち上げて言った。  あまりにタイムリーなプレゼントに、私は驚き、湊は大喜び。 「千恵、昨日湊とサッカーしてて転んだのよ」  匡の問いに答えたのは、お母さん。  転んだ原因のふわふわボールまで見せるから、恥ずかしくてたまらない。 「大丈夫か?」 「匡こそ、仕事じゃなかったの?」 「ああ、終わらせてきた」  それにしても何の連絡もなしに来るなんて、初めてだ。  匡はお父さんに「今日は勝てそうですか?」なんて聞きながら野球に視線を向けた。 「匡! サッカーしよう」  湊がそわそわしながら誘う。 「おう」と匡が湊の頭に手をのせた。  ただ、それだけだ。  匡が湊の頭を撫でただけ。  それだけの光景が、なんだか信じられなくて、でも嬉しくて、胸を締め付ける。
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