9.幸せのカタチ、一緒ならきっと

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 匡が湊にサッカーができる場所を聞き、湊が学校のグラウンドを指定する。  少年団などで使っていなければ、解放されているはずだ。 「千恵。湊とサッカーしてくるわ」 「うん」  満面の笑顔でサッカーボールを抱きしめ、匡の足元から離れない湊は、どこからどう見ても父親と遊びたがる息子の姿。 「湊」 「うん?」 「良かったね」 「うん!」  寝そべったまま二人を見送った。  窓から見ていると、湊が匡になにか話している。 「湊があんなに懐くとは思わなかったわね」  お母さんがコーヒーの香りが漂う私のマグカップを、テーブルの端に置く。 「帰ってきたら、パパって呼んでるかもね」 「それはさすがに……」  マグを手に取り、口に運ぶ。 「匡ちゃん、いい父親になれそうじゃない」 「……そうだね」  匡が子供を望めない身体であることは、初対面で彼自身が両親に話した。  その上で、梨々花と湊を精いっぱい可愛がって育てたいと。  梨々花は、私が匡と再婚することに反対はしていない。  ただ、また引越ししなきゃいけない、とか、名字が変わるのはなぁ、とか言っているだけ。  私ではなくお母さんにこっそり言っていたそうなのだが、梨々花は実父(紀之)より十歳も若い匡が新しい父親になることを、少し喜んでいるらしい。  その話を聞かなくても、匡がとあるアーティストのコンサートのアリーナ席を取れると話した時の食いつきようを見れば、わかっていたが。  トーウンコーポレーションが、梨々花が好きな男性グループのコンサートでスポンサーになっており、関係者席を取れるというのだ。
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