9.幸せのカタチ、一緒ならきっと

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 ま、そうでなくても……。  東京を去る間際、義母が教えてくれた。  あの日、病室で紀之から私を庇って頭を下げた匡のことを、『ドラマみたいで格好良かった!』と話していたことを。  義母には複雑だったろうが、私は純粋に嬉しかった。 「ただいまー」  ちょうど十二時からのテレビ番組が始まった時、梨々花が帰ってきた。  匡と湊が出て行って一時間ほど経っている。  匡もお昼を食べるだろうと、私とお母さんはお好み焼きの準備をしていた。  お母さんは台所でフライパン、私はダイニングでホットプレートで焼いている。 「お好み焼き!」 「そ。ね、匡と湊を見なかった?」 「ううん? 匡ちゃん来てるんだ」 「うん。サッカーするって出て行ったんだけど」 「公園にはいなかった」 「学校のグラウンドに行ってるはず」  梨々花が言っている公園は、家と中学校の間にあり、小学校は中学校とは反対方向。  そのうち帰って来るでしょ、と梨々花は先に焼けたお好み焼きのお皿を自分の前に引き寄せた。 「いただきまーす」  梨々花はソースとマヨネーズ、鰹節をたっぷりかけて、大きな口を開ける。  本人には言えないが、梨々花は札幌に来て太った。  東京では学校の後に塾や習い事があって、おやつなんてほとんど食べなかったのに、今は部活の後でお腹を空かせて帰って来るから、晩ご飯の前にパンやらスナック菓子やらをぺろりと食べてしまう。  お母さんは、子供らしい健康的な体型でいい、と言うけれど、買ったばかりの制服がきつくならないか心配だ。
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