1.夢に見る、会いたくなかった男

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『それでも! そんな男やめて俺にしなよ、とか言い寄ってくる奴、いそうじゃね?』  カップの中をスプーンでかき回す私は、ふんっと笑う。 『二年後にはあんたより高給取りになってるんで、って笑ってやる』 『すげープレッシャーなんだけど?』 『じゃ、のりかえる』 『できないくせに』 『なんでよ』と、今度はムッとする。  二つのカップを持って、ソファにもたれるように座る匡の元にいく。  カップを一つ渡すと、『サンキュ』と言って彼は口をつけた。 『二年後に俺が就職したら、もう少し広い部屋に引っ越そうな』 『そう? 私は気に入ってるけど、この狭さ』  匡の隣で膝を曲げて座り、カップの中の黒い液体にふぅっと息を吹きかける。 『セックスん時、落ちる心配のないベッドが欲しい』 『不純な動機ー』  ケラケラと笑う私の肩を抱き、匡が頬に口づける。  その唇は、ほんのり温かい。 『これほど大事で切実な動機はないだろ』  ジョッキの中でしきりに湧き上がる気泡を眺めながら、懐かしい、幸せだったひと幕を思い出す。  匡は大学院に進む予定だった。  就活なんてしていない。  結果的に大学院には行かなかったが、就活に苦戦して実家に帰ったなんて真っ赤な大嘘だ。  それだけじゃない。  卒業式の三日前、いつもより少し強引に、かなり激しく私を抱いた後で、匡は言った。 『俺、実家帰るから』  整わない呼吸が一瞬止まる。
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