9.幸せのカタチ、一緒ならきっと

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 ボストンバッグの中から、封筒を取り出すと、梨々花に渡した。 「ほい」 「なに?」 「約束したろ?」  口をもごもごさせながら封筒を開けた梨々花が、「んーーーっ!!」と食事中じゃなければ叫んでいたろう唸り声を上げた。 「なに、あれ?」  私の隣に戻ってきた匡に聞く。 「梨々ちゃんが好きだって言ってたアーティストのサイン入りファンブック。梨々ちゃんの名前入り」  マジか……。 「匡ちゃん、ありがとう!」 「どーいたしまして。あんまり友達に自慢しちゃだめだよ」 「うん! 勿体ないから誰にも見せない」  梨々花にこんなミーハーな部分があるとは知らなかった。 「匡。無理したんじゃない?」 「いや?」 「それならいいけど。要求がエスカレートすると困るから、ちゃんと断ってよ?」 「あら! 断ったら結婚に反対されちゃうかもしれないし、多少の無理はしちゃうわよねぇ」  お母さんが会話に割り込んで茶化す。  孫との暮らしを楽しんでいる割に、すぐに結婚の話をするから困る。 「どうしてすぐ――」 「――お母さんが匡と結婚したら、転校しなきゃいけないの?」  ゆっくりとお好み焼きを食べ進めている湊が、ポツリと聞いた。 「それ、私も気になってた」と梨々花。  私と匡は顔を見合わせてしまう。  子供たちが札幌での生活に慣れるまで結婚は保留と決めてから、その話はしていなかった。
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