6832人が本棚に入れています
本棚に追加
ボストンバッグの中から、封筒を取り出すと、梨々花に渡した。
「ほい」
「なに?」
「約束したろ?」
口をもごもごさせながら封筒を開けた梨々花が、「んーーーっ!!」と食事中じゃなければ叫んでいたろう唸り声を上げた。
「なに、あれ?」
私の隣に戻ってきた匡に聞く。
「梨々ちゃんが好きだって言ってたアーティストのサイン入りファンブック。梨々ちゃんの名前入り」
マジか……。
「匡ちゃん、ありがとう!」
「どーいたしまして。あんまり友達に自慢しちゃだめだよ」
「うん! 勿体ないから誰にも見せない」
梨々花にこんなミーハーな部分があるとは知らなかった。
「匡。無理したんじゃない?」
「いや?」
「それならいいけど。要求がエスカレートすると困るから、ちゃんと断ってよ?」
「あら! 断ったら結婚に反対されちゃうかもしれないし、多少の無理はしちゃうわよねぇ」
お母さんが会話に割り込んで茶化す。
孫との暮らしを楽しんでいる割に、すぐに結婚の話をするから困る。
「どうしてすぐ――」
「――お母さんが匡と結婚したら、転校しなきゃいけないの?」
ゆっくりとお好み焼きを食べ進めている湊が、ポツリと聞いた。
「それ、私も気になってた」と梨々花。
私と匡は顔を見合わせてしまう。
子供たちが札幌での生活に慣れるまで結婚は保留と決めてから、その話はしていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!