9.幸せのカタチ、一緒ならきっと

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 話している匡よりも、聞いている私や両親の方がよほど緊張している。  心臓がドッドッドッと、割と大きめの和太鼓のような音を立てている。  両親もそうだ。  いや、父親だけ。  母親は、目を輝かせて匡を見つめている。 「――前向きにご検討ください。なるはやで」  ガバッと頭を下げる匡と、小首を傾げる子供たち。  真剣なんだか、なんなんだか。 「なるはや、ってなに?」  湊が聞く。 「出来るだけ早くってこと」  答えたのは、梨々花。 「ゴケントウって?」 「考えるってこと」 「前向いて考えるの?」 「ぷっ! あははははっ!」  我慢しきれずに笑い出したのは、お母さん。  なぜかお父さんは少し安心したように口元に笑みを浮かべ、野球に視線を戻す。 「出来るだけ早く、梨々花と湊のお父さんになりたいんだって」  少しバツが悪そうに、匡は耳の後ろを掻く。  私は若かりし頃を思い出していた。  匡に付き合おうと言われてすぐに返事ができずにいた私に、彼は言った。 『とりあえず前向きに考えて。ゆっくり。あ、けど、できれば、出来るだけ早く。返事待ってる間に激ヤセしそうだから』  私は笑って、『いいよ。私より細い男はイヤだから』と答えた。  あの時も、匡は嬉しそうに、だけどちょっとバツが悪そうに、耳の後ろを搔いてたっけ。 「良かったわね、お父さん。千恵が再婚しても、いつでも会える距離にいてくれるって」  お母さんがお父さんに、言う。  お父さんは「ん」とだけ言った。テレビから目を離さずに。 「お祖父ちゃん、梨々花と湊と暮らせるようになったのに、すぐに離れるのが寂しいんだって」  話している間に少し焦げてしまったお好み焼きを、匡の空の皿にのせる。 「だから、もうちょっとだけここで暮らしてあげて」 「うん」
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