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頷いた湊の頭に、匡が手をのせる。
二人が父子になるのもそう遠くないことだろう。
ふと、考えた。
昔、別れずにいたら、結婚しただろうか。
そして、子供ができないことに苦しんだのだろうか。
もしかしたら、子供のいない人生を選んだかもしれない。
もしかしたら、子供ができないことを理由に別れていたかもしれない。
それは、わからない。
わからないけれど、匡が笑っている現在の姿を見たら、私たちの別れも無駄じゃなかったんだと思う。
子供を持てない匡を、父親にしてあげられる。
離れていた十六年。幸せだったり苦しかったり、笑ったり泣いたりした十六年は、きっとこうして笑い合える現在に繋がっている。
きっと、十六年後も私たちは一緒にいる。
大丈夫。
私たちは幸せになれる。
匡と一緒なら、絶対。
だから、子供たちと話し合ってみよう。なるはやで。
「打った!」
お父さんの声に、全員がテレビを見る。
ずっと不調続きだった若い選手が、確信のガッツポーズをしながら走っている。
「入ったぁ~!!」と両手を上げたのは、お母さん。
私の結婚話はどこへやら。
なぜかお母さんが盛り上がり過ぎて、ハイタッチを要求している。
「ずっと打てなくて可哀想だったのよぉ。もう大丈夫! こっからだ!」
テレビの前に正座して、誰にともなく言っている。
シーズン、もうすぐ終わるけど……。
「なんか、すごい野球好き?」
匡が耳打ちする。
「新しい監督に代わってから、ヒートアップしてるみたい」
「へぇ……」
お父さんとお母さんも人生を楽しんでいる。
「来年はみんなで観に行くか」
「そうね」
その頃には、名実ともに家族になっていたいなと、思った。
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