9.幸せのカタチ、一緒ならきっと

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 壁に立たせてみても、いつの間にか倒れているし、立ったままでもふと目が合うとギョッとする。しかも、いつでも白い歯を見せて笑っているその表情が、どうも好きになれない。  梨々花とすったもんだとやり合った末に、匡に泣きついたのだ。梨々花が。 「匡ちゃん、家建てて! 私、広い一人部屋が欲しい!」と。  なんとも情けない。  が、私同様に抱き枕を邪魔に思っていたお母さんの賛成もあり、めでたく入籍&新築となった。  そして今、梨々花が真新しい壁に穴を開けて、等身大ポスターを貼ろうとしている。  一週間後には、私の両親と匡の両親も一緒にオープン戦に行く。  匡の両親は、私と子供たちを歓迎してくれた。  紀之のお義母さんも、私たちの結婚を喜んでくれた。  聖菜さんは女の子を出産し、娘を心配したご両親が同居を申し出たらしい。  同居すれば、今までのように遊び歩くことはできないだろう。  紀之には、それくらいがちょうどいいのかもしれない。 「……ったく」  壁に貼られたポスターを向かってため息をつく。 「飽きたらゴミの山じゃない」 「まぁまぁ」 「もう貰ってこないでよ!?」 「はいはい」  本当にわかっているのか。  匡はとにかく子供たちに甘い。  梨々花にはアーティストのグッズ、湊にはサッカーボールやらユニフォームやらを買い与える。  匡の勧めで冬期間、フットサルクラブに入っていた湊は、この春からサッカークラブに入ることになった。  大抵の子はもっと早くから始めているから、湊が試合に出ることはないかもしれないけれど、匡が言うには中学入学までには他の子に追いつくはず。  湊が匡の後輩になるかもしれないと思うと、不思議な感覚だ。  子供たちは匡を『お父さん』とは呼ばない。  匡も呼ばせようとしない。  それでいいのかもしれない。  大切なのは呼び名じゃない。 「匡! コレ貼ってぇ」  今度は湊の声。 「湊まで!?」 「ワールドカップのポスター」 「はぁ!?」 「まぁまぁ」  私の肩をポンポンと叩いて、匡が湊の部屋に行く。 「嬉しそうな顔しちゃって……」  私はぐっと伸びをして、引っ越し蕎麦の準備に取りかかった。 ----- END -----
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