2.噓つきの、正直なカラダ

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2.噓つきの、正直なカラダ

「熱、ある?」  匡の声がすぐ耳元で聞こえる。  また、あの夢か。   「飲み過ぎたせいよ」  夢の中の私とは違う台詞を口にする。  酔ったにしては、暑い。  そして、重い。苦しい。 「あつ……」  本当に、熱でもあるんだろうか。  ふっと重みが消える。  金縛り?  今度は打ち所、悪かったかな。  寝返りを打つと、ベッドから浮いた肩が冷やりとした。 「なぁ? 千恵」  少しだけ寒い肩に、柔らかな何かが押し付けられる。 「ん……」  寝言に返事をしたらあの世行き、とか聞いたことがあるような、ないような。  あ、寝言を言ってるのは私か。 「なんで離婚した?」  夢のクセに、嫌なことを聞かないでよ。  あ、悪夢……か。 「うわ……き」 「俺は浮気しないよ」  なぜか、笑えた。笑った。 「ふふ……。知ってる」 「知ってるんだ?」 「うん」  このまま、夢の向こうに堕ちていきたかった。  久し振りのふかふかのベッド。  実家では、床に布団を敷いて寝ている。  文句は言えない。  娘が出戻ってくるかもと、ベッドを用意しておいてくれる親なんていない。  結婚する時、部屋を空にした。  子供を連れて帰省した時は、その部屋で布団を並べて寝た。  今は、段ボールとスーツケースの横に布団を敷いている。  そろそろ、ベッドやチェストを買わなければ。  明日にでも見に行くか……。
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