1.夢に見る、会いたくなかった男

3/16
6335人が本棚に入れています
本棚に追加
/150ページ
 怪我の痛みはもうない。  美容室の予約を入れても大丈夫だろう。 「合コン前に、美容室行かなきゃ……」 「合コン!?」  柚葉が顔を上げる。  私は頬をくすぐる髪を払った。 「そ、お節介な同級生が気を利かせて、セッティングしてくれるって」 「誰? 私も知ってる?」 「真奈美(まなみ)」 「ああ……」と、柚葉が苦笑い。 「再婚なんでしょ? あの子」 「うん。結婚して道外に住んでたけど、離婚して戻ってきて、高校の同級生? と再婚したって」 「だから、私にも地元で再婚相手を見つけろって? 大きなお世話だっつーの!」 「けど、行くんだ?」 「酔っぱらっても家まで送り届けてくれるならって条件付きでね」 「千恵(ちえ)……」  柚葉がテーブルに置いた皿からクッキーを一枚、口に入れた。  濃厚なバターの香りと味。  怪我をした直後は口の中も切れていて、食事も辛かった。   私は、離婚した。  そう、バツイチになった。  旦那に浮気され、浮気相手に子供ができて、古女房は捨てられた。  ふたりの子供は、引っ越しやら転校やらを嫌がって、父親の元に残った。  お腹を痛めた子に、捨てられた。  限りなく十四年に近い結婚生活から突然追放され、私は実家に帰って来た。  で、怪我をした。  決して、自殺未遂などではない。  酔って階段から落ちたのだ。  よその子の「お母さん」と呼ぶ声が、娘と似ていた気がして、よそ見をしてしまった。
/150ページ

最初のコメントを投稿しよう!