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「千恵! 久し振り~」
声をかけられて、私は頭の上に大きなハテナマークを浮かべた。
誰!?
真奈美の隣に座って手を振る人は、肝っ玉母ちゃんと呼ぶに相応しい体格と、オーバーアクションと、イタリアンバル店内の全員に私の名前を印象付ける大きな声。
私は足早に二人を目指す。
店内の一番奥、透明なパーテーションで仕切られた半個室には、十人は座れそうなテーブルと、七脚の椅子がある。
パーテーションの中に入ったはいいが、私の名前を呼んだ彼女が誰なのかを考え、挨拶に困った。
それは、すぐに二人も気が付いたようだ。
「やだ、わかんない!? 香苗だよ」
名前を聞いて思い出すのは、背の順で百七十センチに少し届かないくらいの私の後ろにいた、バレー部のキャプテン。
身体の線が細くて、手足が長く、モデルのようだった。
あれから二十三年。
「子供三人産んだらこんなになっちゃったよー!」
ガハハッと笑いながら、香苗は自分のお腹の肉を掴む。シャープな逆三角形の顔にくせっ毛のショートだった髪が、今はすっかり丸くなった顔の後ろでまとめて大きなクリップで留められている。
「千恵は変わんないねぇ? 離婚したばっかで激やせしたわけじゃない?」
「デカい声で離婚とか言うなよ」
背後からの声に振り返ると、懐かしい顔があった。
「あ、ホント変わんないな、篠塚は。あれ? 篠塚で合ってる?」
聞かれたのは、私が誰かということか、離婚を経た私の苗字のことか。
「合ってるよ」と、答えた。
どちらにしても、合っているからだ。
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