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まだレンタル期間内ではあったものの。私は三回ばかりライオンクイーンを見ると、たった五日でDVDを返却することにしたのだった。念のため、マーティを伴ってあのレンタルビデオ店へ向かう。
「ああ、良かった……間瀬さんが無事で!」
その日も、シフトが入っていたのかカウンターにいたのは細田だった。彼女は私から袋を受け取ると、すぐさまざっと状態を確認して奥へと持っていってしまう。
「ずっと後悔してたんです。やっぱり、お貸しするべきじゃなかったって」
「どういうこと?中身はおかしなことなんて何もなかったけど……」
「DVDの中身以外で、おかしなことは起きていたんじゃありませんか?」
私としても、細田に尋ねたかったことはたくさんある。私は、自分とマーティの身に起きたことを包み隠さず話したのだった。
すると、細田は。
「私、五年くらい此処に勤めてるので知ってるんですが。……時々いるんですよね、ものすごい不運をくっつけて来店されちゃうお客様が」
「不運?」
「そうとしか呼べないので、そう呼んでます。なんとなく、周囲に黒雲みたいなものが見えるんです。で、大抵本人は不幸が続いているせいか暗い顔をしてるわけで。……前回間瀬さんにお貸ししたときは何も問題なかったんです。でも、間瀬さんの後にレンタルした人が問題で……」
なんとなく、ピンときた。
「その不運とやらが、DVDに移っちゃったってこと?」
私の言葉に、細田はこくりと頷いた。
「ほんの一部ですが……元々本人が持っていたものが凄まじいものだったんです。だから、少し移るだけでまずいんじゃないかと思ってました。でも、私はそういうものが見えるだけで何か祓ったりとかできないし、そもそも私以外の人には見えないから貸しませんというわけにもいかなくて……」
「そんな」
「その人、先日間瀬さんがいらっしゃる直前にこのDVDを返却してくださったんですが。その直後なんですよね……交通事故に遭われて、亡くなられたのは。交差点の事故なんですが、ご存知ありませんか?」
「!?」
まさか、と私は眼を見開いた。五日前にレンタルビデオ店に来る前に通りがかった交差点。あの事故に遭っていたのが、私の前に借りていた本人だというのか。
「多分、お宅のマーティちゃんは、そういうのに鋭いんでしょうね」
こんなこと言うべきじゃないんですけど、と彼女は続けた。
「何かを“借りる”お店には、どうか気を付けて。……その商品にくっついている、別の物まで借りてしまう可能性がありますから」
DVDを返却した直後、私に降りかかる不運はなくなった。もしマーティがいなかったら、と思うとぞっとさせられてしまう。
以来、あの店に行くのは少しだけ控えている。
細田がいない時はきっと、“そういうもの”を見分けることができずに借りてしまうだろうから。
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