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桜樹シオン、恋に落ちる
体操服から制服のブレザー姿に戻った咲矢はゆは、小さなリングにチェーンを通したネックレスを慣れた手つきで身に着けた。
一足先に着替えを終えた美少女がはゆのあご下で光ったリングに手を伸ばす。その指先にはキレイにネイルが施されている。
「女子高生ながら女捨ててるのに、このリングのダイヤモンドは本物っぽいね」
ダイヤのリングなど身に着けなくとも輝くように美しい綾坂聖が縛っていたゴムをほどくと、ゆるく巻かれた長い髪が窓から差し込む日光を浴び透けるような淡い茶色が際立つ。
「知らない。気が付いたらコレしてたからもはやしてないと落ち着かないのよ」
「それでシュートミスったんだ」
体育のバスケではゆがゴール下でパスを受けながらもシュートを外した数分前の出来事を聖が笑う。
「私は運動神経も並ですから」
「はゆってポジティブだよね」
女子更衣室を出ると、廊下には異様な高揚感がまん延している。生徒たちの興奮した顔が指す方を見ると、5人の制服姿の男女が隊列を組んで歩いている。
「生徒会の巡回だ! 桜樹先輩だよ! 行こう! はゆ!」
「ええー。私、『何でもできる男』なんかに興味ない~」
はゆの言うことなど聞く気のない聖がはゆの腕を引っ張って連行していく。
廊下いっぱいに生徒会長の桜樹シオンを中心に5人の生徒会メンバーがピラミッド状に広がりながら近付いてくる。
シオンは背が高く、顔が小さくて足が長い。整った顔立ちに自然なブラウンの髪。センターがこれほど似合う男子高校生が他にいるだろうか。否、いてはならない。
生徒たちは男女問わず、皆ワーキャーと歓声を上げている。
爽やかな笑顔でギャラリーに手を振るシオン。
を、仏頂面ではゆは見ていた。
ひとりだけ表情の違うはゆが自然とシオンの目に留まる。
「珍しいな、俺にそんな顔を向けるなんて」
「興味ないんで」
「俺に興味がない?」
はゆのポケットの中でスマホが鳴る。見ると、メッセージの通知が表示されている。
「すいません、父から帰りに牛乳を買って来てとのことなので返信します」
相手は私立清蘭学園の生徒会長様である。はゆは律儀に断りを入れてから、「り」と必要最低限の1文字を返した。
「あはは! お父さんに負けたな、シオン!」
シオンの右脇を固める生徒会副会長が爆笑である。
シオンは探し求めていた宝物を見つけた子供のように嬉しそうに笑った。
「俺よりお父さんなんて、おもしれー女。気に入った、君を特別に生徒会サポートメンバーとして迎え入れよう」
「結構です」
「君、名前は?」
「話聞かないな。咲矢はゆです」
眉をひそめたまま答えるはゆの前に聖が割って入る。
「私! はゆの親友の綾坂聖です! 私も入れてください!」
「いいだろう。よろしく頼むよ、咲矢、綾坂」
シオンの言葉に連動するように、左脇を固める黒髪の女子生徒がニッコリと微笑む。あまりにも上品な笑みに、はゆは好感を持った。
「よろしくお願いします」
「コラコラ、咲矢をサポートメンバーに選んだのは俺だぞ」
シオンそっちのけで女子生徒に頭を下げたはゆに、笑顔のシオンがその額をツンとつつく。
「じゃあ、放課後生徒会室で」
副会長が告げ、生徒会一同が去って行く。
「やったあ! まさかはゆのおかげで生徒会サポートメンバーになれるなんて思ってもみなかった! 桜樹先輩とお話できちゃった!」
聖が大喜びでピョンピョンと飛び跳ねているが、はゆは早くもサポートメンバーなんて受け入れてしまったことを後悔していた。
放課後時間取られるのか……私、早朝ってか深夜2時起きですでに超眠いのに。
授業を睡眠に当てても、はゆの眠気は覚めない。
生徒会室と書かれたプレートを見上げため息をつくはゆと対照的にルンルンでドアを開ける聖。
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