桜樹シオン、恋に落ちる

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はゆが目覚めた時、シオンはすぐそばに立ちトロフィーを布で拭いていた。 はゆと目が合うと、ニッコリと笑う。 寝起きにこの世のものとは思えぬ美形の生徒会長様は軽く衝撃である。 「おはよう、咲矢」 「おはようございます。すみません、椅子取っちゃって」 慌てて立ち上がって周りを見回すと、生徒会室にははゆとシオンしかいない。 「もうすぐ6時だから、そろそろ起こそうと思ってたんだ。門限は大丈夫?」 「はい。私のせいで桜樹先輩まで残らせちゃってすみません」 「気にすることはないよ。スーパーのタイムセールが6時からだから、毎日このくらいまで残ってる」 タイムセール? 変な冗談を言うなあ。 返事に詰まったはゆはシオンがトロフィーを棚に戻すのを見ていた。 トロフィーには、「数学オリンピック 高校生の部優勝 桜樹シオン」と書かれている。 その隣の盾には「全国高校陸上選手権 砲丸投げ優勝 桜樹シオン」と記されているのが見えた。 「砲丸投げなんて、桜樹先輩のイメージになかったから朝礼で表彰されていた時に驚きました」 「ははっ。陸上部の金子(かねこ)くんの教え方が上手だったんだよ。俺が陸上未経験で優勝できたのは金子くんのおかげだ」 「未経験で?!」 「それよりも、立ちながら寝るほどの睡眠不足は慢性的なものじゃないのか。うちの小学生の妹が寝不足は肌の大敵だと言っていたが」 桜樹先輩、妹がいるんだ。いいな。 「私、勤労学生なんで肌の心配してる場合じゃないんです」 「働いているのか。いいな」 いいな? そんなこと言って、代わってくれるの? 朝二時起きですよ、二時。 適当言ってんじゃねえよ、と憤りながら、はゆはシオンへと学ランを差し出した。 「ありがとうございました」 「どういたしま……咲矢のにおいがする!」 「気持ち悪いからやめてください」 ゴミを見る目でシオンを見上げたはゆだが、さっきまで自分が持っていたのはただの地味な学ランだったのに、シオンが着ると急に華やいで驚いた。 ハイスペックにも程がある。 もはやハイスペ偏差値測定不能じゃん。 はゆは仏頂面で「お疲れ様でした」と告げると、さっさと生徒会室を出てスマホを手に取った。 しまった! いつも授業が終わるとすぐ家に帰って晩ごはんまで昼寝をするのだが、連絡もせず夕方六時。心配性の父から着信とメッセージの数がすごい。 「おとーさん! 誘拐でも事故でもないから!」 はゆが慌てて電話をかけたが、時すでに遅し。父は警察へ通報済みだった。
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