17人が本棚に入れています
本棚に追加
『No.001都内、大黒町 雑居ビルの清掃員 中編
~敷根さんという怪異~』
会社に、作業員として入って、2ヶ月が経った頃、
社員が事務的な人間という以外、べつに仕事も
普通だし、変わったところはないと思えた。
ただし、それは、自分の勘違いだと思わされた出来事がある。
まず手始めに、この会社では、『残業』や『夜勤』といったものがなく、社員たちは、
定時になると帰る。
そして翌朝、規則正しく出社する。
最も、社員たちが帰ってからの作業がほとんどなので、昼間はそれほど作業には影響しない。
ただ、たまに昼間の作業もあり、
ゴンドラ機を使ってすべての階の窓硝子をゴムのついたモップで掃除する仕事があった。
はじめてのその昼間の作業で、
異変は起きた。
思えばそれが、敷根さんを見た最初で最悪の『ファーストコンタクト』であった。
その日は、朝からピリピリとした雰囲気で、誰か偉い人が来るのか重役が集まり、(誰か)かを各部署に案内して、挨拶回りのようなことをやっているようだった。
でっぷりと太った鼠のような女性。
ガムをクチャクチャやるような
しゃべり方だった。
たぶん口を開けたまま喋るからああいう
独特のしゃべり方なのだろう。
汚いぼろ雑巾のような破れたシャツを着て、
首からはなぜか、チョコレートやビスケットのお菓子の袋が紐状に縦につながっていて輪になっているものを、ぶら下げていた。
その誰かが、ある部署に入るなり、
部屋にいた社員たちが、ビシッと整列して、
『ようこそお越しくださいました、敷根さま!』
と言いながら、仰々しく出迎えた。
ただ、腫れ物にさわるように皆が上を向いて敷根さんの方には目を合わせようとしない。
(あの女が、噂に聞いた『敷根さん』らしい)
(敷根さんは、この会社の恩人なんだ。
だから、皆敷根さんには逆らえない)
『見ててみろ』
隣にいた同じ作業員仲間が、言う。
『あ!あの人、死ぬよ、これから死ぬよ、
わっちが予言しちゃうから死ぬよ!』
という。
顔面蒼白になりながら、
『そうであります!私は、死ぬのです!』
と社員。
上司が
『名誉のためにしねーい!』
そう言って、
社員は、
壁に何度も頭を叩きつけ、
メガネが割れ、血を額から吹き出しながら、
やがてバタンと、倒れた。
それから、敷根さんは、
『アははははは』
と笑って、部屋を出ていく。
社員は幸い軽傷で無事だったが、
その後、なぞの自主退職。
話では、高い慰謝料と、手当てを渡され、
辞めていったらしいことがわかった。
これが、この会社のシステムだ。
最初のコメントを投稿しよう!