『口利き屋~闇のハローワーク~』

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『No.002 地方N県 雛田村 死んだ人とのお見合い  中編 ~奇妙なお見合い、背合わせの儀~』 川崎が、村に来て、丁度一週間が経った。 約束通り、村長に案内され、 村の名家、戸四良家に来た。 『村一番の地主で、村を再建するのに一役買った功労者の一族が戸四良家なんですよ』 との丁寧な説明をしながら、村長は、 また額から滝のような汗を流しながら、笑っている。 (再建)という言葉が引っ掛かったが、 それは、後程明らかになる。 問題の戸四良家は、 当主 康允、 夫人 彬子 夫人の妹 冴子 妹の夫 幹雄  庭師兼使用人 権蔵 の四人と一人の、家族である。 が、変わった家族で 皆、頭からすっぽり頭巾を被っていて、顔が見えない。 わざとそうしているらしく、顔を見せることは、一族の禁忌(タブー)なのだという。 なので、顔は部外者だけでなく家族にも、見せられない。 物心ついたころには、頭巾を被る生活を強いられるのだという。 ところで、自分は、この家にお見合いをしにきたのである。 (誰と)お見合いするのかを訪ねると、 夫人は、頭巾の上から口元を押さえるようにして、 『川崎さん、あなたの目の前にいるじゃありませんか』 ほかの家族も、同じことを言う。 だが、目の前を見ても誰もいない。 どうやら家族にしか見えない(第三者)がいるようだ。 最もその第三者は、家族であるらしいのだが、 (透明人間)のように川崎には、見えなかった。 その日からはその(秋津宮家)に泊まり込み、 あることをしなければいけない。 それはいないものとの、疑似生活のような暮らしだ。 これが、お見合いではないのかもしれないが、 お見合いをするためには、必要不可欠なのだと家族は、いう。 ただし、見えないのであたかもいるように演技するのは、馬鹿馬鹿しいし、何より滑稽で気味が悪い。 そんな疑似生活をするうちに、何者かの気配が、 自分のすぐそばにつきまとうようになった。 それがもしや彼ら家族のいう(第三者)のお見合い相手なのだろうか。 ある日、川崎は、家族にもう頃合いということで、ある部屋に通された。 そこは(仏間)で、 当然ながら、 仏間には、仏壇があると思うが、妙な場所にあった。 何もない畳敷きの部屋の真ん中に仏壇だけが、 (でん)と置かれているのだ。 その巨大な仏壇のそばには座布団が置かれていて、 そこに座りお互い背中合わせでお見合いをしろというのである。 仏壇の向こうに誰がいるのかはわからない。 ただ、自分が座ったタイミングで、 誰かが同じように仏壇の向こう側で座るくしゃっという衣擦れのような音がした。 誰かが座ったのだろう。 そして自分の正面には、大きな姿見が置かれていて、 姿見には、当然仏壇が映っているだけなのだが、 鏡を見てみると、仏壇の隙間からちらちらとなにかが見えている気がした。 どうやら向こう側にも同じように姿見が置かれていて、丁度仏壇を挟む形で、合わせ鏡になっているようだった。 しかも、自分が仏壇から鏡の方に視線をずらそうとすると、 (こちらを見ないで下さい) とその人物に制止されてしまうのだ。 凡そ一時間ほど正座で座っていたと思う。 やがて向こう側にいるお見合い相手は、いつの間にかいなくなり、 そこには、誰も座っていない座布団だけが、残されていた。 お見合いは、一時間ほどで終わったが、 あれが、本当にお見合いだったのか、 今でもよくわからない。 ただ、家族は、たいへんに喜んでいて、 (あの子もたいへん喜んでいた)とお見合いは成功したのだと、川崎を過剰なまでに誉めるのだ。 川崎は、そんなことを、何度か繰り返しやらされたが、 その子の顔を見ようとするのだが、見れずに終わってしまう。 そして、18回目の(お見合い)が、明日に控えている。 川崎は、(あの娘)の顔が見たい。  そんな気持ちにいつの間にか、取り憑かれていた。 そして後程、川崎は、この村の秘密と、自分のある『勘違い』に気づくことになるのである。
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