『口利き屋~闇のハローワーク~』

6/28
前へ
/28ページ
次へ
『No.002 地方N県 雛田村 死んだ人とのお見合い  後編 ~戸四良家の過去と八百比丘尼(やおびくに)』 後に聞いたが、背中合わせで行うこの奇妙な儀式は、『背合わせ』という村独自の奇妙なお見合い方式だという。 そして、いつもの座敷で、18回目の見合いが、はじまる。 人はおかしなもので、異常なことでも慣れてしまえばそれが『普通』になり『日常』になる。 手慣れたように座布団に座り鏡に映る自分と対峙し、  その後ろにある巨大な仏壇を視界に捉える。 じっと、見つめていると、 いつもとは違う変化に気づく。仏壇の、戸がいつもは閉じているのに、開いているのがわかる。 真っ黒い位牌と、それに背中から撮った背面の遺影がある。 誰のものかはわからないが、 女性のものだとわかる。 もしや、今自分が仏壇越しに背中合わせで座っている女性こそが、その女性なのではないかという、恐怖に囚われる。 それを察したように、 くすくすと女性が笑っている。 女性だけが、その秘密を握っているのだ。 恐怖はやがて行き場のない怒りに変わり、 見てはいけないというのを無視して仏壇の向こう側に回り込み、バッと女性の正体をあらためる。 そこには、誰も座ってはいない。 ただし、先ほどまで誰かが座っていたような凹みはある。 さわってみても、冷たいままで人のぬくもりは感じられなかった。 その日、家族から(見合いは破談)になったということを告げられた。 理由は、察しの通り、 約束を破ったからだという。 しかしながら、 存在しない人物とのお見合いだ。 最初から、馬鹿げた猿芝居に過ぎない。 納得はいかないが、またもやリタイアということになるので、報酬は、雀の涙しか入らない。 ただし、村長から少しだけ、 その家族の秘密を私から聞いたことは誰にも言わないにという約束で教えてもらったという。 それは、この雛田村の(秘密)だった。 その昔、異国の流れ者として日本に渡ってきた者たちがいた。それが、秋津宮家の先祖だという。 流れ者たちは、この村に住んだが、 その家の娘が非常に醜い見た目で婿の貰い手がない。 そこで、婿選びのために、 『戸四良家の財産』を餌に何人かの婿候補を選んだが、その誰もが、娘の顔を見ると恐がってしまい逃げてしまった。 娘の婿選びの独特なお見合い方式が、 (顔を見せない背合わせの儀)と呼ばれるものだったものが、名残として今に伝えられているということだ。 そして、それは今も続いているという。 (今も)という言葉に、 川崎は、自分が参加した見合いのことかと訪ねると、 『まあ、それもあるが、 娘はいまだに婿選びを続けている』というのである。 当然、遥か昔の話、だが、 娘は、普通の人間ではなく、 人より長い寿命を持つ『八百比丘尼(やおびくに)の、直系の子孫だというのだ。 家族とも血のつながりはない。 という。 では、自分が見たものは、 娘の『亡霊』だったのだろうか。 最後にダムに沈んだある村の記録を 村長は、川崎に見せてきた。 その写真を見て、驚いた。 ほとんどの人間の顔が、 故意につぶされていたのだ。 『おぞましい話だが、近親婚を繰り返した結果がこの村の後ろ暗い記憶として残っている』 (娘の予言めいた言葉)に拐かされ、村は、地獄のような間違った道へと落ちてしまったのだという。 川崎は思った。 だからこそ(再建)なのかと。 (ダムに沈んだ村) それこそが、この村の前身なのだ。 しかし、ひとつ疑問が残る。 あの、(娘)は、たしかに私には見えなかった。 あの娘が、もし生きていたならば、 説明がつかない。 本当に娘は生きているのだろうか。 もしかしたら、村人や家族はあの娘が、生きていると信じこんでいるのだとしたら、 いまだに、村は、(娘の予言)から、 解放されてはいないのではないか、 そんな風に思ってしまうのだ。 だとすれば、それは、 娘が、村にかけた、 (復讐)という名前のある種の呪いなのだろう。 そして、仏壇に供えられていた後ろ向きの遺影、 頭巾で顔を隠した家族、 すべてが、事実を物語っている気がする。 そして自分も、その憐れな娘の見合い相手として相応しくないと判断されたのだろう。 いつかあの娘を心から愛せる人は現れるのだろうか。 だとしたら、(呪い)はやっとその時解かれ、 娘は、永遠の苦しみから解放されるのかもしれない。 その後、村がどうなったのかは知る由もない。 『何はともあれ、今回も恐い思いだけして、ほとんどタダ働きだ。畜生』
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加