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 三度目の引っ越しが落ち着いた頃、ふと懐かしい記憶を垣間見た。時間が緩やかになり、ピンぼけしていた世界と目があったからかもしれない。  隣接する一軒家が景色を遮るから――とお安くなっていた一室で、こんな芸術品と会うとは思わなかった。  見えたのは、窓枠いっぱいに咲き誇る花々だった。美しい絵画のように、一面を飾っている。目隠しの機能も持つのか、柵を拠点に集められた花は、ブーケの寄せ集めのようにも見えた。  あれは、いつ頃だろうか。最初の家も、こんな風に賑やかだった。  鮮やかに庭を彩る、地植えの花たち。溌剌と生きる緑葉。中には、空を背景に聳えるものまであった。  とは言え、頭に残っているのは、強い印象だけで出来たコラージュに過ぎないが。  しかし、それら全てを植物好きの母が世話していたこと。その横顔を見るのが好きだったことは、心の記憶に残っている。  ただ、それらの記憶には、愛しさでなく悲しさが添付されていたが。  私の母は約二十年前、私が四歳の時に事故でこの世を去った。それから約一年、父にはっきりと告げられるまで、私は母の帰宅を信じていた。死を理解したのは、もう少し後だった気がするけど。  あ、そう言えば――。  記憶を若返らせると、毎回あるポイントで止まってしまう。成長に伴い疑問を増していく、不可思議な現象が思い出には住み着いていた。  それこそが、"成長しない植物"の謎だ。
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