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 結局、思い出の中で眠ってしまい、目を開く頃には朝になっていた。  スケジュール張を確認し、予定通りに体を引っ張る。異動先への挨拶、役所での手続き、免許証や保険などの住所変更――などなど、小難しい案件を終える頃には夕方になっていた。普段から外にいる割合の方が高いが、今日は特に疲れた。  帰宅と同時に、自然とあの絵に吸い込まれる。花たちは薄闇の中、負けじと色を主張していた。  私には量れないほどの、愛情と時間を貰って育ったのだろう。今思えば、父が花を枯らしたのは、不器用だけが理由ではないのかもしれない。  こんなに疲れてちゃ、やる気なんて出ないもんね。  重い割りに空っぽの体で、なんとか敷き布団だけを形にする。昨日と同じ状態を取ると、今日は一番に笑顔の父が現れた。そう言えば、疲れた顔の想像も、したことすらなかったな。  父は今でも忙しくしていると聞く。私が幼かった頃も、毎日時間と鬼ごっこしていたとか。そんな中で私と向き合ってくれていたのだ。相当、神経を使っていただろう。今なら、あの大変さが分かる。  祖母の家に移動して六年後、父は家を出た。転勤の都合で元の家に戻ることにしたらしい。嫌いを宣言して以降、反抗期を継続し続けた私は背中を無視した。  以降、勉強やら就職やらで私が鬼に追われだし、今では父の声すら忘れてしまった。  ふと思い立ち、寝転がったまま鞄を引き寄せる。中からスマホを引っ張りだし、開いた。出番のほぼない電話帳の中、名前を見つけ出す。馴染みのない画面を前に、小さな緊張が湧いた。  大した用件のない連絡は、やはり勇気を要する。しかし、先伸ばしすれば、数年を跨いでしまう気がする。  適当な用件を作って――考えた結果、あっさり見つけたのは、"成長しない植物"の件だった。あと、引っ越し完了のお知らせと。それだけあれば、不自然ではないだろう。    思いきってコールを鳴らす。しかし、電話が繋がることはなかった。やっぱり父は忙しいらしい。  それから、日を跨いで折り返しがあったが、次は私が受け取れなかった。そうして擦れ違いを重ね、約一ヶ月が経過した。  唐突な切っ掛けが訪れたのは、連絡を諦めかけた頃だった。
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