1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
4
しかし、終着点にあったのは落胆だけだった。茶色の庭――どころではない、荒れ果てた土地が出来ていたのだ。
雑草が檻のように視界を阻み、威圧している。玄関口に続くタイルだけが、地割れのごとく足場を作っていた。お化け屋敷かよ。
長い溜め息が落ちる。少しは記憶に花を持たせられるかも、なんて考えが間違いだった。
「マイ……?」
声に視線が操られる。振り向いた先、驚愕を滲ませる父がいた。人影が私であると認識してか、駆けてくる。前より父が小さくなった気がした。
「家に寄ってたのか。寄るなら鍵を渡せば良かったな」
「あ、いや。そういうつもりじゃなくて、ただ……」
結果から、目的の口外を躊躇う。適切な嘘も見当たらず、無意味に地面を眺める人と化してしまった。最後に話した際の距離感が、どうにも思い出せない。
「あーっと、あ、元気だったか?」
気まずい空気を察したのだろう。演じ気味の台詞が読まれた。不器用ではあるがナイスフォローだ。
「あー、うん。元気だった。お父さんは?」
父に続いて、ぎこちなく返す。もちろん不格好な笑顔つきだ。だが、思っていたよりも自然なアドリブは出来た。しかも大正解だったらしく、切り返しが間を持つことはなかった。
「変わらずかな。マイ、ずっと忙しそうって聞いてたから、元気そうで安心した」
台詞ではなく言葉が聞こえ、被った仮面を落とす。視線が結び付き――父から逸らした。父の視線は、荒れ地へと注がれていた。
「…………えと、ごめんな。庭、こんなんにして」
先を越され、戸惑う。だが、裏腹に声は出た。自分でも驚くほど滑らかに流れて行く。
「あー、いいよ。お父さんが不器用なのは知ってるから。そうだ、それよりさ。ずっと気になってたことがあるんだけど」
「気になってたこと?」
「小さい頃さ、私が一生懸命育ててた種あるじゃん。ほら、芽まで生えたやつ。あれってなんて植物だったのかなって。お父さん知ってる?」
勢いで放った問いに、次は父が戸惑いを見せた。当然の反応に遭遇し、再びぎこちなさに襲われる。父が花の知識を持つ訳がないのに、私は何を聞いているんだか。
知ってるわけないよねーと軽く括ろうとして、止められる。父の口から出たのは、意外な答えだった。
最初のコメントを投稿しよう!