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「ああー、あれか。そっか、マイはあれまだ信じてたのか」
「えっ?」
「多分今も残ってるんじゃないかな。この辺に……」
信じていた――予想の反対を行く一言で、思考が止まりかける。父はと言うと、茂みの一点に潜っていった。恐らくは、あの種を植えたところだろう。
「あった! おいでマイ!」
私を呼ぶ声に、大きかった父を思い出す。嫌いだったお父さん。随分遠くなってしまったお父さん。今でさえ、誇らしく思えないお父さん――なのに、その声に吸い寄せられた。まるで子どもに戻ったように、草を掻き分ける。
「ほら、これだよ」
「これ……?」
かろうじて形を残す棒の前、あの芽はあった。土に同化しつつあったが、確かに同じ形をしている。毎日見続けたのだから間違いはない。
父の手が動いた。迷いなく芽に向かう。そして、次の瞬間にはひょいと抜いてしまった。
展開に口出しできないまま、父だけが次の行動に進む。土を払われた芽が、私の前に差し出された。
そこで、はっきりと発言の意味を理解した。すっかり色落ちしたその芽は、植物の質感を持っていなかった。
「これなぁ、実はレプリカなんだ」
「うわ本当だ……」
確かに精巧な作りではある。事実、幼い頃は完全に本物として見ていた。だが、今は見れば見るほど作り物でしかない。あっさり合致した辻褄に、唖然としてしまった。
察知したのか誤解したのか、父が少し渋い顔をする。
「がっかりしたか?」
「あ、いや、そうじゃなくて……なんでレプリカなのかなって」
それから苦そうに笑った。けれど、そこにあるのは悲しさでなく愛しさのような気がした。
「あまりに一生懸命育てていたからなぁ。生えないのも可哀想だし、かと言って枯れても悲しい。あと育ってしまってもいけないし……。だから父さんなりに考えたんだよ。今思えば、もっと別の方法もあったかもしれないけどな」
私を傷つけないよう、最善の方法を探した。それが、"成長しない植物"の答えだった。
全ての謎が跡形もなく溶け、霧が晴れる。死角に隠された愛情で、思い出が温度を宿す。
成長速度の異常な遅さは、父だからこそ生じた抜かりだったのだろう。私の幼さと父の不器用さが揃って、あの謎は生まれたのだ。
心の底に埋まっていた感情が芽生える。
「……本当に花が咲いたらどうするつもりだったの?」
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